2009年 02月 14日
「ゆきなり」ということば (5)
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文献に見える「ゆきなり」の例のなかでは、江戸初期の享保二年(1717)に出版された『書言字考節用集』に見えるのが比較的早い時期に属するものです。



この辞書は、和漢の書から集めた語を、「乾坤(=天地)」「時候」などの意義項目を立てて分類し、さらにそれぞれの内部をイロハ順に分類して収録語彙を配列します。

f0073935_6362730.jpgその巻八「言辞門」ナ部には「偸安」という漢語が掲げられ、その右に主訓ナリアヒ、左に傍訓ユキナリの二つの熟字訓が施されています。左にその画像を掲げます。

「偸安(トウアン)」の訓読は「安(やす)きを偸(ぬす)む」。この熟語は、《将来のことを考えずに一時の安楽を求める》の意から、《一時逃れ》の意を表すのに用いられます。

主訓となった「なりあひ(成合)」という和語には、《成り行きに任せる》の意があるところから、この熟語の字訓として選ばれたのでしょう。したがって傍訓の「ゆきなり」にもまた、これに近い意味が備わっていたものと思われます。

上記の辞書は、求める語の漢字表記を調べるためのもので、見出し語の語義解説は示されないことが多いため、これ以上の手がかりは得られませんが、「ゆきなり」は本来このような語義を有する語であったと解釈することができます。 (この項続く)
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  *撮影機材:RICOH GR-DIGITALⅡ 28mm f2.4
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by YOSHIO_HAYASHI | 2009-02-14 06:35 | 言語・文化雑考


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