2009年 02月 19日
「ゆきなり」ということば (6)
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「ゆきなり」の話題に戻ります。



『日本国語大辞典』(第二版)には、前回引用した『書言字考節用集』よりも早くに見える、次の例が引用されています。

 其の後は宿をも定めず、行(ユキ)なり川なりに、長堀の材木の上に臥しける。

これは、貞享二年(1685)に大阪で出版された井原西鶴の『椀久一世(わんきゅういっせ)の物語』に出るもの。原典の「行」には「ユキ」の振り仮名があり、これが目下のところ「ゆきなり」のもっとも古い用例にあたります。

この「ゆきなり(に)」が《成り行きに任せて》の意であることは文脈から明らかであり、これが本来の語義にあたることが知られます。

なお、ここに「行なり川なり」とあるのは、「行なり」からこれに語形の近い「川なり」《川の形のまま》を連想によって引き出し、それを後項の「…材木の上に臥しける」に続けたもの。俳諧の付合(つけあい)における「転じ」の手法を散文に取り入れた、西鶴の構文的特徴がよく表れています。

ところで、はしなくもこのことは、「ゆきなり」における「なり」が、「川なり」のそれと同類のものであることを示しています。

このような「なり」は、「川なり」のほかにも、「道なり」や「言いなり」「曲りなり」などにも見られますが、これらの「なり」に共通するのは《…に任せて・…のままに》の意であり、「ゆきなり」もまた《行くに任せること》が原義であったことを示しています。 (この項続く)

早咲きのサクラはもうすぐ満開です。このところの関東近辺の花便りや、ゆっくりした咲きぶりからすると、これはどうもカワヅザクラのような気がします。
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  *撮影機材:RICOH GR-DIGITALⅡ 28mm f2.4
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by YOSHIO_HAYASHI | 2009-02-19 07:36 | 言語・文化雑考


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