2009年 03月 02日
「ゆきなり」ということば (10)
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これまで見てきたように、現代語の《だしぬけに・突然》の意を表す「いきなり」は、形容動詞の連用形「ゆきなりに」から転じた「いきなりに」が、やがて副詞的に用いられるようになり、それとともに語尾の「に」を伴わない形が主流を占めるようになって成立したものと考えられます。



そのような「いきなり」の出現の兆しは、幕末以降に見ることができます。滑稽本『七偏人』(1857-63)には次の例があります。

 是は大変何様(どう)した事と往(イキ)なりまづ青くなり

また、二葉亭四迷の『浮雲』(1887-89)にも次の例が見えます。

 挨拶もせずに突如(イキナリ)まづ大胡座(おおあぐら)

「突如」に「イキナリ」の振り仮名が施されているのは、このことばに現代と同じ用法が生じていたことを示すものです。なお、上の2例がどちらも直後に「まづ」を伴っているところには、ひとつの過渡的な様相が表れているようにも思われます。

こうして「いきなり」の方が次第に勢力を得る一方で、本流にあたる「ゆきなり」は影が薄くなり、やがて消滅の憂き目を見るに至ります。ここにもまた、ことばの歴史の栄枯盛衰の姿をうかがうことができます。
 (この項終り)

東京にようやく青空が戻ってきました。とは言え、大気はとても冷たく、今朝も畑に霜が降りていました。ハクモクレンの開花はまだ先のことになりそうです。
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  *撮影機材:RICOH GR-DIGITALⅡ 28mm f2.4
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by YOSHIO_HAYASHI | 2009-03-02 07:40 | 言語・文化雑考


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