2009年 03月 30日
「したたる(滴)」あれこれ (4)
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シタダルシタタルに形を変えたのはなぜでしょうか。



それは、この変化が起きた江戸期のころには、このことばが一時的に日常語の世界から姿を消していたためであると解釈するのがよさそうです。

1800年代前半のころ、石川雅望(いしかわ まさもち)が編んだ『雅言集覧(がげんしゅうらん)』をもとに、中島広足(なかじま ひろたり)が加筆して明治20年に刊行した『増補雅言集覧』には、このことばが「したたる」の形で見出しに掲げられ、日本書紀の用例が示されています。

もしもこの見出しが増補以前の姿を伝えるものであるならば、すでに19世紀半ばのころには「滴る」が清音形として認識されていたことを示す資料にもなりますが、そのこととは別に、これが古いやまとことばを集めて編まれた辞典の見出しに収められているということは、「滴る」が日常語からは遠い存在であったことを示してもいるわけです。

仮に古い形のシタダルが音声言語として伝わっていたとしたら、それがシタタルの形に変わるという音声上の変化は起きにくいことのように思われます。

しかし、これが日常語としては用いられることの少ない"雅言"であったとすれば、その受容は音声ではなしに、もっぱら文字を通して行われることになりますが、その場合に、仮名表記では「したゝる」のように濁点を表記しない形が一般に用いられますから、これを見かけどおりに清音形として受け入れる可能性は高かったと思われます。

シタダルがシタタルに変わったのは、このような文字言語の世界における受容の結果であった、私はそのように考えます。 (この項続く)
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  *撮影機材:RICOH GR-DIGITALⅡ 28mm f2.4
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by YOSHIO_HAYASHI | 2009-03-30 07:34 | 言語・文化雑考


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