2009年 07月 09日
「泥鰌(ドジョウ)」あれこれ (5)
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前回の記事に示したように、室町期の文献には、ドジョウの漢字表記として借音表記の「土長」を用いた例がありました。



ところで古くからあった和語には、語頭が濁音で始まる単語はほとんどありません。「ドジョウ」が仮にかなり古い時代から存在していた語だとすると、その点から見て希少例に属するものになります。

このことを視野に入れるならば、「土長」はひょっとすると、ドヂヤウではなく、トチヤウと清音に読むべきものではないか、つまり、ドジョウは古くは清音の語だったのではないかという疑問が残ります。そこで、この問題を洗い直しておく必要があります。

先に掲げた『壒嚢鈔』の読み仮名は、「トチヤウ」と清音のように記されていました。しかし、当時の仮名表記では、濁音に読まれるものであっても必ず濁点が施されるとは限らないので、本例をもってこの語が清音であった積極的な証拠と見なすことはできせん。

f0073935_11473464.jpg『壒嚢鈔』よりもやや遅れて成立した『節用集』のうち、本文に記された年記によって文明六年(1474)から延徳二年(1490)のころにかけて編集が進められていたと推定される『文明本節用集』には、トで始まる生物名を集めたト部気形門に、左の画像に見るような見出しがあります。

この「鯲」に付された読み仮名の「ト」と「チ」には、明らかに濁点が施されています。

また『日葡辞書』(1603)にも次の記事があります(画像は『邦訳日葡辞書』による)。
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ここに示されたローマ字書きによっても、この語が濁音であったことは疑う余地がありません。

したがって、この語が清音であったことを示す積極的な証拠は、目下のところは残念ながら得ることはできません。しかし、だからと言って、これらの文献よりも古い時代にドジョウが清音であった可能性をまったく否定するわけにもいきません。この問題についてはなお疑いを残しておくことにします。 (この項続く)

  *撮影機材:R-D1+SUPER WIDE-HELIAR 15mm f4.5
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by YOSHIO_HAYASHI | 2009-07-09 11:12 | 言語・文化雑考


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