2009年 07月 25日
「み」あれこれ (3)
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さて、このあたりからようやく本題に入ります。

大阪で「七唐辛子」と言い、江戸では「七唐辛子」と呼んだ二つの名前には、「み(味)」と「いろ(色)」の違いがありますが、意味の面ではどうなのでしょうか。



見かけの上では、《あじ》と《いろ》の違いを表しているようにも思われますが、実はそうではありません。「味」も「色」も、表す意味は同じだったのです。

そのことを教えてくれる例があります。

寛永十九年(1642)に大蔵虎明(おおくら・とらあきら)が書写した狂言の台本(通称『虎明本狂言集』)の中に「かうやくねり(膏薬練)」という曲があります。

天下一の膏薬造りを自称する、京と鎌倉に住む二人の男が出会い、負けた方が弟子になるという申し合わせで膏薬の吸引力比べが始まり、ついには鎌倉方が引き倒されて負けになるという途方もない話です。

仕合の前に、それぞれが自らの膏薬の由来や効能を述べ立てる場面があって、京の男が次のように言います。

それがしの膏薬は、天下に隠れがおりない。薬種はめづらしい物がまづ三入り候よ。海の底に住む白烏、松の木になつたる蛤、石のはらわた、々十二三ほど入り候よ。

自分の膏薬には珍しい物が「三色」入っているとして、いかにも怪しげな薬種名を三種挙げ、ほかにも「色々」全部で「十二三味」も入っているぞと自慢をしています。

ここで、男が練り膏薬の材料に用いる薬種を数えるのに、「色」と「味」の二とおりの言い方をしていることに注意しましょう。これは唐辛子の呼び名の「七色」と「七味」の使い方とまったく同じです。

このように数字の後に付いて用いる「み(味)」には、漢方の薬種などの種類を数えるのに用いる接尾辞としての用法があり、一方の「いろ(色)」にもまた《種類》の意が備わっていました。

つまり、粉唐辛子の「しちみ(七味)」は《七つの味》ではなく、「なないろ(七色)」もまた《七つの色》ではなかった、どちらも本来は《七種》の意味を表す呼び名であった、というわけです。 (この項続く)

*撮影機材:RICOH GR-DIGITALⅡ 28mm f2.4
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by YOSHIO_HAYASHI | 2009-07-25 07:17 | 言語・文化雑考


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