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2009年 08月 05日
「み」あれこれ (9)
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《低》の意を表すのに「ヒク」ではなしに「ヒキ」の形を用いた『日葡辞書』の例は、前項の「ヒキミ」の他にも次の2例があります。



【例1】
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【例2】
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【例1】は、見出し語の「ゲクヮン(下官)」を平易な日本語に言い換えた訓注に「ヒキイ クライ」とあります。ここでは形容詞「低い」が「ヒクイ」ではなしに「ヒキイ」の形で用いられています。

【例2】は、《こびと》を意味する見出し語が「ヒキュゥト」の形で示されています。この語は「ヒキ(低)ヒト(人)」から転じた「ヒキウト」がさらに拗音化したもので、その本来の形に「ヒキ」が含まれていたことを示しています。

これらの例は、形容詞「低い」の語幹が「ヒキ」の形で使われていたことを示すものです。

ただしこの辞書では、次の【例3】に見るように、形容詞としての見出し語には「ヒクイ」を立てるだけで、「ヒキイ」の形は掲げられていません。

【例3】
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これらのことから、中世のころまでは《低い》の意味を表す形容詞は「ヒキイ」の形であったのが、この辞書の成立した十七世紀初頭のころからは、現代語と同じ「ヒクイ」の形も用いられるようになり、「ヒキイ」よりも通用度を高めつつあったらしい様子がうかがわれます。

話題が「み」から逸れてきているのを承知の上で、さらにレポートを続けることにします。 
(この項続く)

*撮影機材:RICOH GR-DIGITALⅡ 28mm f2.4

by YOSHIO_HAYASHI | 2009-08-05 18:27 | 言語・文化雑考


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