2009年 09月 25日
前回までに取り上げたヤマブドウの方言の中では「ブンド」がもっとも本来の形に近く、これが「ブドウ」から出たものであることは明らかです。 これに続くのが、第3音節の子音がドからゾに交替した「ブンゾ」であり、さらにそのゾがズに転じた母音交替形が「ブンズ」にあたります。「ブッス」は、「ブンズ」の撥音が促音と交替して後続音節を清音に変えたものととらえることができるでしょう。 ところで、その本来の「ブドウ」から「ブンド」などに見られる「ン」の加わった形が生じたのには、どのような経緯があったのでしょうか。 かつての濁音には、その音節の頭に鼻音的な性質が備わっていたと推定されています。例えば「ド」は、古くは[ ンド ]のように発音されたというわけです。このような発音は現代でも青森や秋田に方言音として残されており、そこでは「おどり(踊)」が「オンドリ」のような形で実現されます。 語によっては、そのような鼻音性が濁音の前にンの音をもたらしたと思われるものがあります。例えば《たくさん》の意を表す副詞の「ふんだん(に)」は、中世末期のころに漢語の「フダン(不断)」から生まれたとされますが、これはダの前にあった鼻音的要素が後に撥音節に変化した結果、「フダン」から「フンダン」に転じたものと見ることもできます。「とび(鳶)」が一方に「トンビ」の形を持つのも、これと同じ変化によるものでしょう。 ブドウを表す方言の「ブンド」「ブンズ」などの「ン」も、このような鼻音的要素が撥音として定着したものと見るのがよいでしょう。つまり「ブンド」の語形は ブンドー > ブンドー > ブンド のような過程を経て成立したことになります。 今回の一連の方言の分布がほとんど東北地方に限られている点も、この推定を支えるのに有利な要素になると思われます。 (この項続く) ※ 別室の塔婆守の写真雑記帳を更新しました。
by YOSHIO_HAYASHI
| 2009-09-25 05:13
| 言語・文化雑考
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