2009年 09月 27日
いわきの方言 -ブンズいろ(終)-
f0073935_6392119.jpg「ブンズいろ」をしたヤマブドウの実は、古くから日本の山野に自生していました。これは食用には適しませんが、衣類などの染料として利用されてきました。

ブドウは古く「エビ」あるいは「エビカヅラ」と呼ばれました。左の画像は、鎌倉中期ごろの書写と見られる『妙一本仮名書き法華経』のコピーです。この1行目に見える、「葡萄」に相当する「【艸冠+補】萄」の漢字で書かれた熟語には、右側に字音読みの「ふたう(=ブダウ)」とともに、左側にはその和訓にあたる「ゑひ(=ヱビ)*」の振り仮名が施されています。当時はブドウを指すのにこの和語が用いられていたことを示すものです。

この呼び名は、後に漢語の「ブドウ」に圧倒されて、単独では使われなくなってしまいましたが、ブドウ色に染めたものは「えび染め」と呼ばれ、かろうじてこの語の中にその古い姿を化石のように留めています。

ちなみに、明治30年代のころに女学生を「海老茶(えびちゃ)式部」のあだなで呼んだのは、彼女たちがエビ茶色の袴を着けていたことによるものです。なおこれを「海老茶」と表記するのは、魚介類のエビを表す漢字を流用したあて字にあたります。

ヤマブドウはこのように古くから生活に密着した存在であったところから、その実に似た色を表す語として、漢語のブドウが形を変えて各地の方言に伝承されたものと見ることができます。

*(注)  「ひ」の仮名表記は「ひ」が本来のものであるが、この和訓が施された時期には、すでに「え」と「ゑ」の仮名は混用されていたと考えられる。
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by YOSHIO_HAYASHI | 2009-09-27 06:39 | 言語・文化雑考


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