2009年 10月 01日
「しさる(退)」あれこれ (1)
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《後へひきさがる》の意を表す「しさる」という動詞があります。これには現代語にも複数の語形があり、また歴史的に見ても興味深いものがあることばです。今回はこの語を取り上げることにします。




f0073935_734422.jpg寛永十年(1633)ごろまでに書写されたと推定される『謎の本』という文献が天理図書館に所蔵されています。ここには中世後期に作られた謎157題が集められ、その答とともに収められています。

左の画像はその冒頭に掲げる謎の問題。本体は次のように記されています。(天理図書館善本叢書『なぞ 狂歌 咄の本』によるコピー)

 しかしさつておどつてたぬきかしらかくいてもんとりうつ

ここには濁点が一部にしか施されていないのでそれを補い、さらに漢字をあてて読むと次のようになります。

 鹿しさって踊って 狸頭隠いてもんどりうつ

「隠いて」とあるのは「隠して」の音便化した形。狂言の台詞などでも「放して」を「放いて」と言ったり、「許して」を「許いて」と使ったりする例がよく見られます。このように、サ行に活用する四段動詞に助詞の「て」や助動詞の「た」などが接続する際に、語尾の「し」が「い」に変わるのは、中世日本語に見られる文法的特徴の一つで、ここにもそれが認められます。

ところで、この問題の答は「かゞぎぬ(加賀絹)」。なぜこの答が得られるのかを解くのが中世の謎解きです。この謎はどのように解けばよいでしょうか。 (この項続く)

*撮影機材:PENTAX K-7 +SIGMA17-70mm f2.8-4.5 DC MACRO
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by YOSHIO_HAYASHI | 2009-10-01 07:41 | 言語・文化雑考


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