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2009年 10月 04日
「しさる(退)」あれこれ (4)
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「しさる」の第2拍が古く清音であったことは、日本側の文献からも確認されます。



次の画像は、院政期のころに編まれた原撰本に大幅な改編を加えて、鎌倉時代に成立した漢字字書『類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう)』観智院本の「走部」からのコピーです。

「しさる(退)」あれこれ (4)_f0073935_6162261.jpgここには、見出し字【走+欠】(①)に対して、漢字2字を組み合わせてその字音を示す「七夷反」(「七」の声母 s と「夷」の韻尾 i の組み合わせから「シ」の音が得られる。「メ(=反)」はその方法の名称「反切」を示す略号)の注記と、シサルの和訓が記されています。

この見出し字は、他の伝本には【走+次】(②)の字体を掲げるものもあり、『大漢和辞典』によれば、①は②の俗字にあたるとのよし。またこれも同辞典によれば、この字には《ゆきなやむ》の意があるとのことなので、上記の字書がこれにシサルの和訓を与えたのはうなずけることです。

ところでこの和訓を示す片仮名には、それぞれの左隅に単点が施されています。これは「声点(しょうてん)」と呼ばれるもので、アクセントと清濁の表示を兼ねる記号です。仮にシサルのサがこの時代に濁音であったならば、サには複点(濁点)が施されるはずなので、ここではそうでないことから、当時はまだサが清音であったことの証拠とするができます。

ただし、この文献は書写にやや不正確なところがあるため、これだけでサの清濁を判断するのは危険ですが、この字書の他の伝本にあたる高山寺本においてもこの事実には変わりがないので、この点については問題はないものと考えてよいでしょう。 (この項続く)
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  *撮影機材:PENTAX K-7 +SIGMA17-70mm f2.8-4.5 DC MACRO

by YOSHIO_HAYASHI | 2009-10-04 06:16 | 言語・文化雑考


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