2009年 10月 17日
中世の謎から -じゃうり(4)-
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f0073935_5565519.jpg草履の呼び名に「ざうり」と「じゃうり」が併存していた例は、日本側の古辞書の中からも探し出すことができます。



左の画像は、中世後期から近世にかけて広く流布した、いろは・意義分類体辞書『節用集』の源流に近い位置に立つ、『文明本節用集』のサ部器財門に掲げられている項目のコピーです(風間書房の写真影印版による)。

見出しの「草履」には、右に字音「サウリ」、左には「クサ クツ」の単字訓が施され、その下に「或作上履(あるいは上履に作る)」の語注が添えられています。そしてその「上履」に「シヤウリ」の読み仮名が振られています。

これまでにも例を見たように、ここに見える読み仮名の「サウリ」「シヤウリ」は、それぞれ「ザウリ」「ジヤウリ」の濁音無表記形と判断すべきものですが、ここで注意されるのは、後者において「上履」の漢字表記が新たに生まれていることです。

f0073935_553743.jpgこれは《上履き》を意味するもののように受け取られるおそれがありますが、けっしてそうではありません。この「上履」は、ジャウリという語形に合わせて別の漢字をあてた「宛字」と見るべきものです。

漢字を使いこなすことのできる階層にとっては、「草履」の「草」の字をジャウと読むことに違和感があり、そこでこれにふさわしい漢字表記を新たに案出した、それが「上履」であったと解するのが適切でしょう。

ちなみに、この古辞書の諸本の中には、この表記を「草履」と並記する形で見出しにしているものもあります。左に掲げる『天正十七年本節用集』(天理図書館善本叢書によるコピー)はこのことを示すものです。ザウリの異語形ジャウリはこのように、「草履」とは別に「上履」という宛字表記までをも生むに至ったことが知られます。 (この項続く)

※ 別室の塔婆守の写真雑記帳を更新しました。

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 *撮影機材:PENTAX K-7 +SIGMA17-70mm f2.8-4.5 DC MACRO
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by YOSHIO_HAYASHI | 2009-10-17 05:58 | 言語・文化雑考


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