2006年 04月 18日
ところでさきに引用した土芳句に出る「砂利」は、これを用例として掲げる辞典類ではすべて「じゃり」の項目に収められています。また『俳諧七部集』の活字翻刻書や注釈書の類でも、これを「じゃり」と読むのが通例です。 これもさきに見たように、『猿蓑』よりも前の文献にすでに仮名で記された「じゃり」の例がありますから、この「砂利」を「じゃり」と読んでも格別問題はなさそうに思われます。 しかし、これは「ざり」と読まれた可能性もあります。 『日本国語大辞典(第二版)』には、「じゃり」とは別に「ざり」の項目が立ててあります。少々長くなりますが、その第一項のはじめの三例をそのまま引用しましょう(傍線は筆者)。 *俳諧・俳諧三部抄(1677)上・春「ざり砂や蒔絵に見ゆる松かざり<風子>」 *歌謡・松の葉(1703)二・月見「ざりとる池の水鏡」 *随筆・年々随筆(1801-05)四「俗間に小石をざりといふ。歌にさざれとよむと同言なるべし。さざれも、ざりも、さらさらじゃりじゃりといふ音を、形容したるなり」 はじめの二つは、『猿蓑』の刊行された1691年に近接する前後の時期のもので、ともに「ざり」の形を用いているところが注意されます。第三の例では、「小石」を指す俗語の「ざり」を雅語の「さざれ」と同じ語と見なし、サラサラジャリジャリという音を写したものとする語源説を示しています。 また、江戸期の漢学者太田全齋(1759-1829)の編んだ二十六巻から成る方言・俗語辞典『俚諺集覧(りげんしゅうらん)』も、見出し語に「ざり」の形を掲げ、「ザ濁 ジヤリとも云」と注記しています。語頭が濁音ザであること、別に「じゃり」の形もあることを指摘したものです。 さらにその用例として、上に引いた『年々随筆』の記事と同じ内容が、著者名を冠した「石原正明(まさあきら)随筆」の出典名で引用されています。 以上のことから、当時の《砂利》には、「ざり」「じゃり」両語形の存在したことが知られます。土芳句の「砂利」の読みも、一義的に「じゃり」とばかりは定められません。 (この項続く) *撮影機材:R-D1+NOKTON classic SC 40mm f1.4
by YOSHIO_HAYASHI
| 2006-04-18 06:49
| 言語・文化雑考
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