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2006年 06月 19日
すあま(12)
すあま(12)_f0073935_6131457.jpg前回参照した『和英語林集成』初版の状況は、第三版(1886)ではかなりの変化を見せます。初版と同じ項目を比較してみましょう。

①KEWAI or KEHAI ケハヒ 粧 -suru, to dress, adorn one's self, adjust one's dress; make one's toilet.
Syn. YOSOO. KESHO.

②KEWAI ケハイ n. Sound; sign: indication; appearance: hitono kita - ga suru, there is a sound of some one coming.
Syn. YOSU, KESHIKI.




①の《化粧》の意を表す語の項で注意されるのは次の3点です。

1)実際の発音を示す見出しのローマ字表記に、初版にもあったケワイとは別にケハイが加わっています。

これは、ローマ字見出しの次に示されている仮名表記の「ケハヒ」が二通りに読まれたことを示すもので、ケワイはハ行転呼形、ケハイは第二音節が非転呼形に当たります。

後者が改訂版になってから加わったのは、この読み方が比較的新しいものであることを示すと見て差し支えないでしょう。この点は、目下の主題であるスアマとスハマの関係を考える際にも参考になりそうです。

2)Syn.(類義語)を示す項に、これも初版にはなかったケショウ(化粧)が加わっています。これはこの語の変遷を考える際に参考にすべき事柄です。

3)仮名表記が初版の「ケハイ」から「ケハヒ」に変わっています。これは、文章語の表記を歴史的仮名遣いによって統一する方針が徹底されたことによるものと見られます。

②の《気配》の意にあたる語の項では、次の点が注意されます。

1)初版の語義解説の筆頭にあった Manner(態度・ふるまい)が Sound(物音)に改められています。これは初版よりも現代語の「気配」の用法により近づいていることを示すものです。

2)ただし発音の面では、現代語のケハイに対して、第三版に至ってもなおケワイである点が異なります。《気配》がケワイからケハイになるのは、さらに後になってからのことのようです。

3)漢字表記も初版と同様に、まだ「気配」が姿を見せていません。

この辞書の二つの版を比べただけでも、明治期のケハイに関してこのような点が明らかになります。(この項続く)

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*撮影機材:R-D1+Travenar90m/m f2.8

by YOSHIO_HAYASHI | 2006-06-19 06:13 | 言語・文化雑考


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