2006年 11月 09日
タヌキ追跡 #16【加筆アリ】
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ネコに変じたタヌ公を追いはじめてはや半月。気がついたらタヌキが季語として登場する冬になっていました。貍御殿に迷い込まぬ前に、このあたりでひとまず追尾を終えることにします。



鎌倉時代のネコもやはり「ねう」と鳴いていました。

 問 ネコトイヘル獣ノナク音(ね)ノ、「ネウ」トナク如何(いかん)。
 答 「ネエム」ヲ反(かへ)セバ、ネウ也。
   「ネ」ハネズミ也。鼠也。「エム」ハ得也。ネガフ心也。
   「ネウ」ハ「ネズミヲエム」トナキヰタル也。


これは経尊(きょうそん)という人物が、1268年から1275年ごろにかけて編集した、『名語記(みょうごき)』といういろは引き語源辞書に見える記事です。この辞書は、当時の日常語の語源について上記のような問答体で記述したものです。

上引の箇所には、ネコの鳴く声はどうして「ねう」なのか、という質問に答える形で、その理由が説明されています。

その答えにいわく、「ねう」という鳴き声は、ネエムが縮まったもの。さればこそ、にゃんこは《鼠を手に入れたい》とて、ネ(鼠)エム(得む)、ネエウ、ネウと鳴くのでござる。

なんのことはない、「薬罐(やかん)」の語源を尋ねられた大家が、川中島の合戦にその語源を求めて、旧名"水わかし"に「矢が当たってカーン、矢ッカーン、やかん」と辻褄を合わせる、あの落語「やかん」に負けないほどの珍語源解ぶりで、思わず「座布団三枚ッ」とかけ声を掛けたくなります。

確かに話としては面白いのですが、象徴語(擬音語・擬態語の類)と記号語(それ以外の言語)とは本質的に異なるものであるという認識がまだ生まれていない時代には、かかる類(たぐい)の語源解釈でもけっこう通用していたのでしょう。ただし現代といえども、けっしてこれに引けを取らない語源解もありそうですが・・・。

それはさておき、この記事が「ねう」のネをネズミのネと解している点には、それなりの言語資料としての価値があります。「ねう」がそのままネウと発音されていたからこそ、ネはネズミのことだという解釈が可能だったわけです。

仮に当時すでに「ねう」がニョウだったら、このような解釈は生まれなかったはず。ただし、逆に当時のズミがニョズミだったら話は別ですがね・・・^^;

ト、落ちが付いたところで、へい、おあとがよろしいようで。
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*撮影機材:R-D1+NOKTON classic40mm f1.4 (SC)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2006-11-09 09:36 | 言語・文化雑考


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