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2006年 12月 13日
大阪洒落言葉#4 -へびあし(その3・カイカブル)- 【追記アリ】
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           -白絵さんと城尾さん-

「大阪洒落言葉」の解説を続けます。



3)山伏の夕立で、[かい]かぶる。

夕立に見舞われた山伏が、身に付けていた法螺(ほら)貝を頭の上に載せて雨をしのぐ様子、それを「貝(を)被(かぶ)る」と表現し、そこに「買い被る」を掛けたもの。

「買い被る」という複合動詞は、現代では《人や物をその値打ち以上に高く評価する》意を表すのに用いますが、これは後に意味が転じたもので、本来は《物を実際の値段よりも高く買う》の意を表す言葉でした。

ヘボン式ローマ字綴りで知られる、J・C・ヘボンの編んだ和英辞書『和英語林集成』初版(1867)には、次のようにあります。

 KAIKABURI,-ru,-tta,カヒカブル,買被,i.v. To buy at an extravagant price,
 to be taken-in in the purchase of any thing.


ここには《途方もない値で買うこと、何かを買う時にだまされること》の語義解説が加えられてあり、幕末から明治初期頃までは、この言葉はこのような意味に用いられていたことを示しています。

この複合動詞の後部要素「かぶる」には、「人の責任をかぶる」「罪をかぶる」などの例に見られるように、《好ましくないものを身に受ける・負担として背負い込む》の意があり、「買いかぶる」もまたそのようなマイナス評価を含む言葉であったと考えられます。

現代語の「買い被る」の意味に近い用例としては、『日国』が引用する尾崎紅葉の『二人女房』(1891)の次の例が比較的早い時期のものと思われます。

 女親はお銀の容色(きりゃう)をば、たしかに実価の五倍も買冠(カヒカブ)ってゐて

=== 追記(06.12.14)=== 
ここでは現代語とほぼ同じ意味でこの動詞を使っていますが、「実価の五倍も」という修飾句を冠しているところには、これが本来金銭に関する文脈に用いられるものであったことを示す痕跡がまだ残っています。
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ところで上記の洒落言葉は、河竹黙阿弥の作で「白浪五人女」の別名題を持つ、歌舞伎台本「處女評判善悪鏡(むすめひょうばんぜんあくかがみ)」の五幕目の台詞の中にも登場します。

 「おい、山伏の夕立だぜ」
 「なんだとえ」
 「買いかぶりだといふことよ」


この作品は、慶応元年(1865)8月1日に江戸市村座で初演されたものですが、この頃にはすでにこの洒落言葉が一部の人たちの間で通用していたことを示しています。

*撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)

by YOSHIO_HAYASHI | 2006-12-13 17:41 | 言語クイズ


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