2007年 02月 02日
「初心者の人」という言い方(三続)
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今度は「初心者の人」という言い方を、つげ義春のマンガのタイトルに用いられた「無能の人」と比較しながら、さらに考えを進めることにしましょう。



「無能の人」は、「無能の人」とは言い換えられないはずです。

なぜならば、「無能者」には、その対象を蔑視するマイナス要素が含まれているからです。このようなマイナス要素を含む「○○者」には、ほかにも「無宿者」「無礼者」「無用者」「狼藉者」「田舎者」「お調子者」「お尋ね者」など、少なからぬ例を挙げることができますが、これらについて見ても、事は同様です。

なおこの問題については、「○○者」の「者」が音読形「○○シャ」であるのか、それとも訓読形「○○もの」なのかという点にも別に目を向ける必要があります。

「無能者」には「ムノウシャ」「ムノウもの」の両形がありますが、上に掲げた他の「○○者」は、もっぱら訓読形「○○もの」に限られている点が注意されます。

これに対して、「○○者の人」という言い方では、そのほとんどが「○○シャ」の音読形を用いるものであり、訓読形「○○もの」に「の人」の付く例は皆無と言ってよいでしょう。

「者」が訓読形を取る熟語には、ごく少数のプラスの価値を持つ「果報もの」「幸せもの」「大立てもの」なども含まれてはいますが、他のほとんどは、何らかのマイナス価値を持つ語であることに気付きます。

訓読形「○○もの」には「の人」が付かない理由は、ここに求めることができます。

つまり、そのような言語的属性を持つ呼称に「の人」を付ければ、必ずやミスマッチの印象を与えることになるはずだからです。

ここにおいて、「○○シャ」の後に「の人」を付ける言い方には、対象に対するプラスの待遇意識のはたらいていることが確認されました。

なお、一方に「○○者の方」という言い方もあるのに、なぜ「○○者の人」という重言めいた言い方をするのか、という問題が残ります。

待遇意識の面から見れば、「○○者の人」よりも「○○者の方」のほうが高いことは明らかです。
しかし、それではいささか待遇度が高すぎると思われる対象に対して、それよりややその度合いを低めて用いるのにふさわしい形として創り出されたのが「○○者の人」という言い方だったと考えるのがよさそうに思われます。
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*撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2007-02-02 07:34 | 言語・文化雑考


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