2007年 05月 31日
イロハの逆さ読み(3)
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昨日引用した『醒睡笑』の咄に出てきた最初の男の台詞は、地口の一種と見ることができます。



すでにこのブログの春蝉合宿番外編のページにも記したように、「地口」というのは次のような性格を持つ言葉遊びの一種です。

 巷間によく知られた、ことわざ・格言・口ずさみの類をもじったもので、「洒落」とか
 「語呂合せ」と同類の言葉遊び。オリジナルの文句の音節を他の近似音節にすり
 替えて意外性を生み出す


咄の中で「いや苦しからず。昔より『革緒に塗る血』とあるほどに」という男の台詞を、人々が「さてよい作や」と褒めたのは、ここに出る「革緒に塗る血(かわをにぬるち)」が、5月28日の記事に掲げた、いろは歌の「ちりぬるをわか」の逆読み「かわをるぬりち」を踏まえた地口になっていて、足を怪我しながらとっさの機転をはたらかせてこれをもじった男の機知に感じ入ったからです。

つまり、男の台詞が地口として成り立つためには、その元句にあたるいろは歌の逆読みが、世間一般に広く知られていなければなりません。すなわちこの笑話は、当時の人々は誰でも逆イロハを唱えることが出来たということを、我々に教えてくれてもいるわけです。

一方、自分も褒められたいと思ってその真似をした男は、最初の男が唱えた逆イロハの一節を間違えたばかりか、正順で「いろはにほへと」とやらかしてしまいました。これでは地口にも何もなりませんね。この咄のポイントは、この男が間抜けな失敗をした、その可笑しさにあります。

このような失敗談は、落語などによく出てきますね。それもそのはず、この『醒睡笑』には、落語の元になった咄が多く含まれていて、作者の安楽庵策伝(あんらくあん・さくでん)は落語の始祖と見なされる人物でもあります。
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  *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2007-05-31 07:58 | 言語・文化雑考


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