2007年 07月 17日
肝心カナメ(2)
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カナメの前身にあたると思われるカノメという語を漢字で表記した古い例は、文明十六年(1484)に成立した、五十音順の意義分類体辞書『温故知新書』のカ部器財門に見ることができます。



 [鹿目]  カノメ

ここでまず注意されることは、この語がカの部の「器財門」という分類項目に収められている点です。このことから、これが動物のシカの目を指すものではなく、器物の名前であることが知られます。

次に、この見出し漢字[鹿目]の字体は、「鹿」字とその下に置かれた「目」字を併せて一字となるように、「鹿」字の「广」が長く書かれているところも注意されます。中国にはそのような漢字はありませんから、これは国字と呼ばれる、和製漢字にあたるものと見てよいでしょう。

かりに《扇のかなめ》を表すのに初めから「要」の字を用いていたのならば、何もわざわざこのような漢字を造る必要はありません。これはそのような意味を表すのにふさわしい漢字がないために、やむなくカノメという語に「鹿目」の二字を当て、それを"圧縮"するようにして一字に仕立て上げたものと考えることができます。

ちなみに、このような手法で造られた国字には、古代の人名に用いられる「麻呂」(まろ)という二文字の万葉仮名表記を一字に合成して造った「麿」や、これも姓名などに用いられる万葉仮名表記の「久米」(くめ)の二字を一字に仕立て上げた「粂」などがあります。

また、上記の辞書よりも遅く、天文十六年(1547)から翌年にかけて成立したと見られる、イロハ分類体辞書『運歩色葉集』(うんぽいろはしゅう)のカ部にも、次のような記事があります。

 鹿目  カナメ  扇

この辞書には、語の配列に意義による分類は施されてはいませんが、上記の『温故知新書』と同じ表記の「鹿目」に対して「カナメ」の振り仮名がなされ、さらにその下に「扇」と記されてあることから、この語が《扇のかなめ》を指すものであることが知られます。

上記の二つの記事はわずかなものですが、ここから、《扇のかなめ》を指す語の形は、15世紀から16世紀のころにカノメからカナメに変化したこと、またこの語の漢字表記には「鹿目」が用いられていたことを読み取ることができます。
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 *撮影機材:RICOH GR-DIGITAL 28mm f2.4 (1・2枚目)
        R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation) (3枚目)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2007-07-17 04:57 | 言語・文化雑考


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