2007年 07月 21日
肝心カナメ(4)
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《扇のかなめ》を指すカノメの語源解には、これまで取り上げた「鹿目」「蚊目」のほかに、もう一つ別のものがあります。



江戸中期の天明4年(1784)に、入江昌喜(まさよし)という人物が著した『久保之取蛇尾』(くぼのすさび)という考証的随筆の中に、次のような一節があります。

 扇のかなめは、蟹の目に似たれば、しかいふなるべし。源太府集に、

 うちにて大夫のすけの、あふぎ(扇)のかのめ固めて、とくつかはすとて
    かにのめのはなるるたびにいとどしく 君が心のうしろめたさよ


著者は、扇のカナメは蟹の目に似ているところからその名が出たと説き、その証拠として「源太府集」に収める和歌とその詞書(ことばがき)を引用しています。

ここに引かれた和歌は、その詞書によれば、「大夫のすけ」という宮中に仕える女性の持つ扇のかなめがゆるんでしまったので、和歌の作者がそれを固める修理を依頼され、戻ってきた扇に添えてその女のもとに届けたものであることが知られます。

この歌には、かなめがゆるんで扇の骨が離れがちなのを見るにつけて、あなたの心も私から離れて行くのではないかと気がかりでならない、という思いが述べられています。

ちなみに上記の随筆に引用された「源太府集」とは、「群書類従」和歌部に収める『大蔵卿行宗卿集』のことで、こちらの本文と比べてみると、さきの随筆に引用された詞書の下線部が、次のように異なっていることに気づきます。

 かのめ固めてとてつかはしたりし、固めてつかはすとて

おそらくこちらの方が本来の形で、上記の随筆はここを引用する際に、同じような語句が繰り返されているために、そこを見落としたものと思われます。

またこの歌集には、上記の和歌に続いて、それを贈った相手の「大夫のすけ」から届いた返歌も収められています。

     かへし     大夫のすけ
 けふよりは君がかのめにかたまりぬ 人もあふきは思ひはなたん


この歌は「あなたに修理を頼んだ扇のかなめが固められて戻ってきたように、私も今日からはあなたに心を固めました。他の男性たちも、私に逢おうという気持を捨てることでしょう」という意を表したものです。ここに詠まれた「あふき」には「扇(あふぎ)」と「逢ふ気」が掛けられ、さらにその「扇」が「かのめ」の縁語にもなっています。

これらの記事から、この歌集が編まれた当時は、《扇のかなめ》がカノメ、あるいはカニノメとも呼ばれていたことが知られます。したがって、さきの随筆の著者が説く、カノメを「蟹目」から出たものとする語源解は、かなり説得力があるように思われます。

今日の写真は、先日淺草で撮ったものの中から拾い上げました。雨のために画像のストックが底をついています。
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 *撮影機材:R-D1+SUMMARON35mm f2.8 (MLmount)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2007-07-21 05:52 | 言語・文化雑考


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