2007年 07月 27日
肝心カナメ(8) -完-
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これまで見てきた文献のうち、使用年代が明らかで、《扇のかなめ》を指す語形としてもっとも古いのは、『大蔵卿行宗卿集』に出てきたカノメとカニノメです。



この二語の関係については、カニノメが次のように変化してカノメに転じたと考えるのがよさそうです。

  kaninome > kannome > kanome

つまり、カニノメのニの母音 i が脱落してカンノメになり、さらに そこから生じた撥音 n が次の no と縮約を起こしてカノメになった、ということになります。そしてさらにこれがカナメへと変化したわけですね。

なお「鹿目」とか「蚊目」という漢字表記は、カノメという語形が成立し、その語源が忘れ去られた後に、この語形に合うように当てられた、宛字の一種と考えるのがよいと思います。

人間の心理面から考えてみても、はたして《扇のかなめ》の形が、連想として《鹿の目》や《蚊の目玉》に結び付くかどうか、大いに疑問があります。

これに対して《蟹の目玉》の方は、《扇のかなめ》と形がとてもよく似ていますから、これへの連想がはたらいたと考えるのはいかにも自然です。

なお、ついでに言えば、この部品が扇に装着されている状態よりも、扇に取り付けられる前の姿の方が、より《蟹の目玉》を思い起こさせる可能性が高いように思われます。そうすると、《扇のかなめ》がそのような形で存在するのを目にすることができるのは、扇の使用者ではなく、それを作る側の人たちであることになりますね。

最後は推測になってしまいますが、私は、《扇のかなめ》に名前を与えたのは、昨日の記事に出てきたような、後にカナメヤと呼ばれるようになった職人たちではなかったかと考えます。

最後に蛇足を一つ。幸田露伴(1867-1947)の『幻談』(岩波文庫)の中に次のような一節があります。

 あたかも開いた扇の左右の親骨を川の流れと見るならばその蟹目(かにめ)のところが
 即ち西袋である。


『幻談』は、言語に関する随筆として知られる作品ですが、露伴がここで「要」ではなしに「蟹目」の漢字表記を用いているのは、彼もまたカナメの語源をこのように考えていたことを示すものです。(完)
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 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2007-07-27 08:03 | 言語・文化雑考


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