2007年 08月 17日
紙子《紙製の着物》一衣(いちえ)は夜の防ぎ、ゆかた・雨具・墨筆のたぐひ、・・・ なろうことならば「ただ身すがらに《身一つで》」旅に出たかった芭蕉、その必要最小限の持ち物の中に「ゆかた」の入っている点が注目されます。 『おくの細道』よりも90年ほど前にキリシタンが出版した『日葡辞書』(1603-04)には、「ゆかた」に関して次のような記述があります。 Yucatabira.l,Yucata.(ユカタビラ,または,ユカタ) 後者は省略形.湯で身体を 洗う者が,自分の身体を拭くためのCatabira(カタビラ). (岩波書店『邦訳日葡辞書』による) ここにも「省略形」とあるように、「ゆかた」は本来「ゆかたびら(湯帷子)」と称されました。この辞書が編まれた17世紀初頭のころは、まだその原形も併用されていたことを示しています。 「ゆかたびら」は、すでに平安時代から用いられ、古くはこれを着て蒸し風呂に入ったのが、後には入浴後の汗取りとして使用されました。また、本来の用途に供された時代には、麻の無地だったのが、のちには木綿が使用され、さらにこれに染め模様を入れて、夏に着用されるようになり、現代に至っています。 『日葡辞書』が「省略形」とする「ゆかた」の語形がいつごろから使用されていたかを知るには、『日国』「ゆかた」の項に引用する『奉公覚悟之事』(15世紀中後期ごろの成立?)に、「湯かたびらを、ゆかたとは云まじき」とあるのが参考になります。 この記事によれば、室町時代のころにはすでに省略形の「ゆかた」が生まれていたことと、この呼び名は表立った場所で使うのは好ましくない、俗な語形として意識されていたことが知られます。 芭蕉が奥州の旅に持参した「ゆかた」は、浴後に使用するためのもので、旅には欠かすことのできない用品だったわけです。今ならさしずめ、旅行バッグに詰めるバスタオルと言ったところでしょうか。ただし現代では宿に用意されているので、芭蕉の記すように「痩骨の肩」にかかって身を苦しめる「路次の煩(わずらい)」にはならなくなりましたが。 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
by YOSHIO_HAYASHI
| 2007-08-17 08:02
| 言語・文化雑考
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