2007年 08月 20日
季語あれこれ -浴衣(4)-
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蕉門俳諧の付合に見える「ゆかた」の扱いの例をもう一つ取り上げます。



元禄六年(1693)四月、将軍家の名代として日光への代参を勤める藩主に随行する、美濃大垣藩士岡田千川の旅立ちへの送別として、芭蕉が発句を詠み、これに千川が脇を付け、さらに他の連衆六名を加えた八吟歌仙「笹の露」の巻が興行されました。

その初折裏から名残折の表にかけて、次のような付合が見えます。

(初裏)
 十七句目  花見んと直る円座にあたたまり     青山 (春/花)
 折端       狂へば梅にさはる前髪         凉葉 (春)
(名残表)
 折立     霰ふる踏歌の宵を恋わたり       翁   (春)
 二句目     もりならべたる片木(へぎ)の蛤    此筋 (春)
 三句目   湯上がりの浴衣干(ひ)る間を待兼て  凉葉 (●)
 四句目     窓のやぶれに入るる北風        左柳 (冬)

初裏十七句目の花句以降、春季が四句続きます。「翁(芭蕉)」の句では「踏歌(とうか)」が新年(旧暦では春)の季語。かつて正月十五・十六の両日に催された宮中行事で、「霰(あられ)ふる」はそこで謡われる歌の中に繰り返される囃し詞をふまえたもの。この詞にちなんで、この新春の行事は「あらればしり」とも呼ばれます。

その後、三句目の「浴衣」句をはさんで、四句目に冬句が付けられます。三句目の「ゆかた」は「湯上がりの」の修飾句が示すように、夏とは限らず浴後に着用されたものですから、この句は無季とすべきものです。これを夏の句とすると、次に続く冬句の「北風」との間に飛躍がありすぎて、不自然な印象を否めません。

さらにこの後、五句目以降八句目(月の座)までは、秋が四句続く展開を見せています。したがって、かりに三句目を夏の句とすると、季句が十句も連続する過密ぶりを見せることになり、季のあしらいに問題を生じます。

ここはいったん「雑」の句をはさんで、その後再び季句を続けたと解するのがよく、この点からも、三句目の「浴衣」は無季として扱われたと見るのが適切でしょう。
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 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2007-08-20 07:38 | 言語・文化雑考


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