2007年 08月 29日
歌仙「さみだれを」の巻をめぐって (3)
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大石田に宿泊した翌日、芭蕉・曾良に一栄・川水の両名を加えた四吟歌仙「さみだれを」の巻の興行が一栄宅で始まります。この作品の内容は曾良の「書留」にも記されていますが、それとは別に、芭蕉がみずから筆を取って清書し、亭主の一栄に贈った懐紙が残されており、その巻尾には次のような文字が見えます。



   最上川のほとり一栄子宅におゐて興行
                 芭蕉庵桃青書
  元禄二年仲夏末


曾良の「書留」と芭蕉自筆懐紙の本文を比較してみると、文字や語形に関する部分的な異同は見られるものの、句形にはさほどの相違はありません。ここでは後者を底本とする『校本芭蕉全集』第六巻の本文に従って、初折裏二句目までの部分を引用することにします。

カラー文字が本来のもので、これに「発句・脇・第三」などの句順を示す文字と、付合の順番(付け順)を示すA・B・C・Dの記号を便宜的に加えました。

(初折表)
 発句  さみだれをあつめてすゞしもがみ川     芭蕉 A
 脇     岸にほたるを繋ぐ舟杭           一栄 B
 第三  瓜ばたけいさよふ空に影まちて        曾良 C
 四句目  里をむかひに桑のほそみち        川水 D
 五句目 うしのこにこゝろなぐさむゆふまぐれ    一栄 B
 折端    水雲重しふところの吟            芭蕉 A
(初折裏)
 折立  侘笠をまくらに立てやまおろし        川水 D
 二句目  松むすびをく国のさかひめ         曾良 C

まず、この一巻全体の付け順に目を向けてみることにしましょう。

これに続く初折裏三句目以降は、ここまでと同じくABCD、BADCの順番で付け進められ、花の座にあたる初裏十一句目からは順序を入れ替えて、BDAC、DBCAの順番を二度繰り返した後、最後もその前半にあたるBDACの順に進めて挙句に至ります。

これは「膝送り」と呼ばれる連句の進め方で、あらかじめ句を付ける順番を決めておき、それに従って付合いを行うものです。

このような四吟歌仙では、ABCDとBADCの順を交互に繰り返しながら付け進めるのが通例ですが、この作品に見られるように、途中でその順番を入れ替えることも珍しくありません。むしろそのようして付け順を入れ替えた方が、句の付合に新たな変化をもたらすきっかけにもなるわけです。
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 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2007-08-29 05:45 | 言語・文化雑考


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