2007年 11月 15日
「びんぼすっぽ」という言葉 (3)
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中世日本語に、その漢字表記は不明ですが、「すつ」という言葉がありました。



キリシタンの編集した『日葡辞書』(1603-04)は、この語を次のように解説しています(『邦訳日葡辞書』<岩波書店>による)。

 Sutcu.(すつ) 米などを入れる俵,または,袋.

この「すつ」という語は、《食べる物がなにもない状態》を言うのに「すつなし」あるいは「すつかわき」の形で用いられ、さらに《ひどく貧乏な様子》の意を表すのにも用いられました。

時代別国語大辞典 室町時代編』<岩波書店>は、この二つの見出しの項にそれぞれ次のような用例を挙げています。

 白髪蒼顔ナル形モ、スツナキ事モ、ヨク相似タルヲ咲(わら)ウゾ (四河入海)

 我ハスツカハキデ、毎日上尊ヲ賜ル様ナ大官人ノ吉相ハ無ゾ (山谷詩集鈔)

なお、後者の「すつかわき」を動詞として用いる場合には、次のように「すつをかわく」のように「を」を伴って使用されます。

 詩人ト云モノハ、昔カラスツヲカハイテ貧シキモノゾ (四河入海)

ここに引用されている文献は、「抄物(しょうもの)」と呼ばれる、主に漢籍を対象とする注釈書の類にあたるものですが、その講釈が話し言葉を用いてなされているので、中世の口語の姿をうかがい見ることのできる言語資料として重要な存在です。

問題の「すつ」を用いた慣用句が、文学作品ではなく、このような文献の中に、仮名書きで用いられているのは、それが俗語としての性格を持つものであったらしいことを思わせます。
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 *撮影機材:R-D1+NOKTON classic40mm f1.4 (S・C)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2007-11-15 07:13 | 言語・文化雑考


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