2008年 04月 20日
花の名前 -ボタン(7)-
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さきの4月18日の記事で、「龍膽」を詠むのにリウダウの語形を用いた源順の歌があることに触れました。



ところが一方には、この花名のもう一つの語形にあたるリウダムを用いた歌もあります。
それは、『古今和歌集』巻十「物名(もののな)」の部に収められる次の作品です。

     りうたむの花       とものり
 わが宿の花ふみしたく鳥打たむ野はなければやここにしも来る


「物名」歌というのは、ある物の名前をそのまま詠むのではなく、それを掛詞として他の言葉の陰に隠して詠む歌のこと。ここでは題詞に示された「りうたむのはな」が「物名」にあたり、「とりうたむのはなければや」の箇所にそれが隠されています。リウダムという難しい漢語を、やまとことばに巧みに置き換えて詠みこなしているところがなんとも見事ですね。

『古今和歌集』の成立時期は905年から914年のころとされています。また、この歌の作者「とものり」とは、当時の著名な歌人の一人である紀友則のことで、およそ856年から903年のころをその生存期間と見るのが通説のようです。

これらの事実にもとづくならば、リウダムという語形は、もう一方のリウダウの形を用いた源順の歌よりも、ほぼ100年ほど前の時期にすでに存在していたことが知られます。

しかしそのことだけで、リウダムがリウダウよりも古い語形だということにはなりません。

紀友則の歌が「物の名」という制約のもとで詠まれたものであることを考慮に入れるならば、リウダウの語形がすでにリウダムと併存していたとしても、彼はリウダムの方を選んだはずです。

なぜなら、仮に「鳥打たむ」の箇所にリウダウの語形を隠そうとすると、それは「鳥打たう」の句形を取ることになりますね。

意志を表す助動詞「む」は、中世以降にそこから転じて「う」の形に変わり、現代に至っています。その時代の人物ならば「打たう」の形を用いることもできますが、9世紀末から10世紀初頭の時期にはまだそのような形は生まれていません。ですから、彼はこの歌ではリウダムを用いるしかなかったことになります。

ただしこれは、その当時すでにリウダウも一方に存在していた可能性を否定することはできないという消極的な推測に過ぎず、リウダウも存在していたことの積極的な証明にはなりません。

その問題を考えるには、さらに別の角度からの検討が必要になります。

(追記)昨日アップした二枚目の画像、紫色の花の名はライラックだということを、朝のオンライン連句の折に kokichi さんに教えていただきました。
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  *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2008-04-20 07:09 | 言語・文化雑考


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