2008年 04月 26日
花の名前 -ボタン(9)-
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「牡丹」がボウタンの形で用いられていた例は、平安時代の他の作品にも見ることができます。



昨日取り上げた『枕草子』よりも少し後の時期、1028年から1092年の頃までに成立したとされる『栄花物語』には次のようにあります(梅沢本を底本とする日本古典文学大系本による)。

 このみだう(御堂)の御まへのいけのかたには、かうらん(高欄)たかくして、そのもとに、
 さうびん(薔薇)・ぼうたん・からなでしこ・紅蓮花のはなをうへ(植)させ給へり。


この本文には、「ほうたん」の「ん」文字が記されていますが、その後に、当時の人ならば《植える》の意を表すのに「う」と書くはずのところを、「う」としている点などから見て、この本文には後世の書写時における表記のあり方が反映しているものと判断されます。しかしここでもボウタンの語形が用いられているところは、『枕草子』と共通する点が認められます。

これらの二つの作品よりも早く、974年頃に成立したとされる『かげろふの日記』にもまた、同じ語形が用いられています(桂宮本を底本とする日本古典文学大系本による)。

 まへに、ませ(籬)ゆひわたして、まだなにともしらぬ草どもしげきなかに、ぼうたん草ども、
 いとなさけなげにて、花ちりはててたてるをみるにも(中略)いとかなし。


この本文にも、別の箇所に「まる(参)」を「まる」としたり、「くるし(狂)」を「くるし」と書いたりする後世の表記習慣が反映していますが、ボウタンが当時の語形を伝えるものであることは疑いありません。

このような例にもとづくならば、『色葉字類抄』が「俗」としたボウタンという語形は、かえって10世紀の頃に用いられていた古形を伝えるものであったことが知られます。

すなわち、近現代の短歌や俳句に用いられる「ぼうたん」は、このような伝統を受け継ぐ語形であったというわけです。 (この項なお続く)
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  *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2008-04-26 07:49 | 言語・文化雑考


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