2008年 07月 26日
花の名前 -アジサイ(8)-
f0073935_6395324.jpg
白氏文集』に収める「紫陽花」と題する漢詩には、それが作られた事情を記した注記が添えられています。それを訓読して示します。

 招賢寺ニ山花有リ。人、名ヲ知ルコト無シ。色ハ紫ニシテ、気ハ香バシク、
 芳麗ニシテ愛スベシ。頗(すこぶ)ル仙物ニ類ス。因(よ)リテ紫陽花ヲ以テ
 之ニ名ヅク。




白楽天が訪れた招賢寺という寺に自生していた、その名を誰も知らぬ花は、紫色で香気を放ち、芳麗で愛すべきものであり、俗界を離れた趣があるので、作者はこれに「紫陽花」という名を付けた、というわけです。

この注記により、「紫陽花」という漢名は白楽天の命名によるものであることが知られます。しかし、そのように名付けられたこの花は、はたして今われわれがアジサイと呼んでいるのと同じ種類のものだったのでしょうか。

植物学者の牧野富太郎は、その論文の中でこの問題を取り上げ、アジサイは日本の固有種であり、中国産の植物ではないので、白楽天が「紫陽花」と名付けた花は絶対にアジサイではないと強調しています。

確かに、上に引用した白楽天の文章を見ても、「色ハ紫ニシテ」とあるのはともかく、「気ハ香バシク」というところは、香りに乏しいアジサイにはふさわしくない記述だということに気付きますね。

『白氏文集』に見える「紫陽花」を、アジサイの漢名とした『和名類聚抄』の記事は、どうやら誤りと見るべきもののようです。しかし、それ以降の辞書類などでは、この記事を根拠に、アジサイの漢字表記に「紫陽花」を用いるようになった結果、これが通用のものとして現在に至っています。 (この項続く)
f0073935_6412364.jpg
f0073935_6413215.jpg
f0073935_6415396.jpg
f0073935_642291.jpg

 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
[PR]

by YOSHIO_HAYASHI | 2008-07-26 04:52 | 言語・文化雑考


<< 花の名前 -アジサイ(9)-      花の名前 -アジサイ(7)- >>