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2008年 08月 01日
いわきの方言 -キッサシ (2)-
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日本方言大辞典』(小学館)には、キッサシが見出し語として掲げられ、そこに次のような語義解説が施されています。



 きっさし 【切挿】 [名] 【方言】 木を切って地面に挿し、発根させること。挿し木。

このことばは、《切って挿したもの》の意を表すキリサシの第2拍が促音化してキッサシの形になったものと考えることができます。

また同書では、この方言を使用する地域として、宮城県仙台市・山形県を挙げています。

この点についてもN・Kさんに確かめたところ、土地の人から聞いたキッサシも、同様に《挿し木》の意味にも使われるということだったそうです。

上記の方言辞典は、これまでに公刊された方言集や地誌の類にもとづいて使用地域を示しています。小名浜の方言に関しては、それを記録した文献がこれまでなかったために取り上げられなかったというだけのことで、これと同じことばと見ることができます。

ところで昨日示したように、こちらの地域では、キッサシを《他所からその土地に移り住んで、まだ日の浅い人》の意にも用いていました。そのような用法が生まれたのは、もうすでにお気づきのように、他所から移り住んできた人がまだその土地に根を下ろしていないところを「挿し木」になぞらえたことによるものですね。

これは、ことばの意味領域が広がる過程を示す一つのモデルとしても、興味深い事例です。上記の方言辞典には、キッサシがこのような意味に使われることは記述されていませんが、その欠を補う意味でもこの方言の存在は貴重であると思われます。

東北地方の他の地域についても調べてみれば、さらに新たな使用地域を発見することも可能かもしれません。ただし、このような方言を使ったり、聞いたりしたことのある年齢層の方々が存命中でないと、その手がかりは永久に失われてしまいますが。 (この項終わり)

しばらくちび八の姿を見かけないと思っていたら、どうやら親から独立して、近くの別の場所で仲間(兄弟?)と一緒に暮らしていたようです。4枚目の画像はその現場でのスナップ。
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 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)

by YOSHIO_HAYASHI | 2008-08-01 06:48 | 言語・文化雑考


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