2008年 08月 03日
東北地方には、語中・語尾のカ行やタ行を濁音として発音する地域が多いのですが、いわきでもこの語は第2拍が濁音化して[ヨギ]と発音されます。私は、父方の祖母がこの言葉を使っていたのを覚えています。なお、いわきではヨキは小形の斧を指しますが、地方によってはマサカリのような大形の斧を指すこともあるようです。 ヨキという語は、すでに1000年以上前の文献の中にその姿を留めています。 平安中期の漢字字書『新撰字鏡』(898-901ごろ)では、「鉿」という漢字に音仮名で「与支(よき)」の読みを施しています。 これより少し遅れて成立した『和名類聚抄』(934ごろ)には、「斧」の和名として「乎能(をの)、一名、與岐(よき)」とあり、ヲノとヨキが類義語であったことを示しています。 平安末期、1130年ごろに成立した『古本説話集』の巻上には、ある木こりが山の番人から斧を奪われてしまったので、それを返してもらうために次のような歌を詠んだという話があります。 あしきだになきはわりなき世の中に よきをとられて我いかにせん 【切れ味のよくない斧でさえも無いとどうにもならない暮らし向きだというのに、よい方の 斧を取られて私はどうしたらよいでしょうか】 この歌では「よき」が、上の句の「悪(あ)しき」に対する「良き」と、《斧》を表す「ヨキ」のかけことばとして用いられています。またここのヨキは、木こりが木を切るのに用いる大型の斧であったことも知られます。 この歌の出来映えのお陰で、木こりは山守から無事にヨキを返してもらえた、というのがこの話の結末です。 斧が生活の中から姿を消すとともに、こういう古い言葉も消滅して行きます。ヨキが方言から失われて完全に死語と化すのも、寂しいことですが、そう先のことではなさそうです。 2枚目の画像は、近くの農家の畑で撮ったもの。このあたりの農家などには、8月1日に、牛と馬をかたどったナスとキュウリの作りものを門口に置いて、先祖の魂を迎える習わしがあります。右側に白いものが見えるのは、迎え火(線香?)をたいた跡でしょうね。 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
by YOSHIO_HAYASHI
| 2008-08-03 06:31
| 言語・文化雑考
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