2008年 09月 19日
花の名前 -ケイトウ(1)-
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 きりぎりすいかで浮身の情なき         芭蕉
  茎たくましき筒の鶏頭花            去来


貞享四年(1687)春、京都から江戸の芭蕉庵を訪れた去来を迎えて興行された四吟歌仙「久かたや」の巻に見える付合です。



前句の「情けなき」「浮身」に対応させて、「茎たくましき」「鶏頭花」と付けたのは、「向付(むかいづけ)」と呼ばれる連句手法にあたります。

この「鶏頭花」は花筒に活けられたもの。この短句では、七・七の音数律に合わせるのに、「鶏頭花」と書いてケイトウと読ませていますが、一般にはこれをそのままケイトウゲと読むこともありました。

この連句興行の84年前、1603年に長崎で出版された『日葡辞書』には、次の画像に見るような記事があります。
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ローマ字書き日本語とポルトガル語で書かれた語釈を読むために、『邦訳日葡辞書』(岩波書店)の訳文を掲げます。

ケイトゥ (鶏頭). ニワトリノ アタマ,すなわち,ケイトウゲ(鶏頭花). 花の一種,または,草の一種.ケイトウゲの条を見よ.

ケイトゥゲ(鶏頭花). ある種の草の花で,ちょうど鶏のとさかのように見えるもの. ¶ また,その草自体をいう.


前項の冒頭に「ニワトリノアタマ」とあるのは、漢字表記を想定してその訓読みを示したもの。ケイトウを実際にこう呼んでいたわけではありません。キリシタンが編んだこの辞書では、活字印刷の都合上、漢字が使えなかったので、漢語の見出しに対してはこういう便法が用いられます。

現在でも、口頭でシリツダイガクの"シリツ"の違いを示すのに、"ワタクシリツ"とか"イチリツ"といった言い換えを用いる、あのやり方と同じことですね。 (この項続く)
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 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2008-09-19 07:15 | 言語・文化雑考


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