2008年 09月 26日
花の名前 -ケイトウ(5)- 【追記アリ】
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ケイトウが染色に用いられたことを示す例は、前回引用した万葉集とは別の資料にも見られます。年代不明ながら、古く正倉院文書の紙背に書かれた次のような落書があります。



 家の韓藍花 今見れば うつしがたくも なりにけるかも

ここに「韓藍花」とあるのも、ケイトウの古名カラアヰの漢字表記にあたるものですが、ここでもまた、前の万葉集の和歌と同じく、《うつし染めにする》意を表す動詞「うつす」とともに用いられている点が注意されます。また、この歌の内容によれば、うつし染めには、花があまり大きくならないものを用いたらしいことも知られます。

f0073935_20275551.jpgところでこの紅色の花が、「~アヰ(藍)」の名で呼ばれたのはなぜでしょうか。実はこれとよく似た別の例があります。それはベニバナ(紅花)が、古くクレノアヰと呼ばれていたことです。

左の画像は、前々回に引用した『本草和名』に載る記事ですが、ここではベニバナを指す「紅藍花」の見出しに対して、「久礼乃阿為(クレノアヰ)」の和名が示されています。

クレというのは「呉」の漢字で表される語で、本来は3世紀頃、中国揚子江の南にあった「呉国(ごこく)」を指す名称だったのが、後に中国から伝来した物の名の頭に付けて「クレ~」の形で用いられるようになったものです。「呉竹(くれたけ)」「呉服(くれはとり)」などのクレがその例にあたります。

クレノアヰもまたこの類に属するもので、《中国から伝来した藍》の意を表す語だったのが、のちにその色を指す名称となり、語形も縮約してクレナヰに変わります。

そのクレナヰとは、まさしく《紅色》の意を表す語。そうすると、カラアヰもクレノアヰも、ともに紅系統の色を指す語であるところに共通点があることに気付きます。 (この項続く)

最後の写真のにゃんこは、かなり長い間姿を見せなかった白絵。餌袋の音を聞きつけて現れたのを、彼岸花の前まで誘導して、ポーズを付けてもらったものです。その前の写真はちび八。だいぶ大きくなり、近くまで来るようにはなりましたが、まだ警戒心を捨ててはいません。

【追記】『本草和名』見出し字の下に「燕支(えんじ)ヲ作ル者」とあるのは、この花から染料が作られることを示す注記です。「燕支」は「燕脂」とも書かれる紅色の染料名。中国の「燕国」に産したところからこの名が出たとされます。実体は異なるものの、現代のエンジ色にその名を留めています。(2008.09.27)

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 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2008-09-26 07:40 | 言語・文化雑考


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