2008年 09月 27日
花の名前 -ケイトウ(6)-
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クレノアヰ(呉藍)のクレが《中国》を指すように、カラアヰ(韓藍)のカラもまた外国を指す名称のひとつです。



カラ(韓)は、本来は古代朝鮮南部にあった国の名ですが、そこから意味をひろげて古代朝鮮を指す名称にもなり、後にはさらに転じて《外国》の意にも用いられるようになります。さらに中国を指してカラと呼んだ例もあるので、カラアヰのカラがそのどれにあたるのかを簡単に決めることはできません。漢字表記に「韓」とあるからというので、ただちに古代朝鮮と結びつけるのは考えものです。

そのことはさておき、クレノアヰ・カラアヰが、ともに外国を指す名称を冠しているのは、日本のアヰ(藍)と区別するためです。これは、外国渡来のアヰの色が、本邦のアヰとは異なるものであったこと、実際に則していえば、赤みの強いものであったからに他なりません。

鮮やかな紅色を指す、カラクレナヰ(韓紅)という古語があります。これもまた、クレナヰが色名として定着した後に、それよりもさらに深い渡来植物による紅色を指すのに「カラ」を冠したもので、ここにも同じ造語法を見ることができます。

最後に蛇足を一つ。

クレノアヰが後にクレナヰに転じたのは、kurenoawi に含まれる -oa- という母音の連接を避けるべく、前の母音 o を脱落させたことによるものです。

一方、カラアヰの karaawi にもまた -aa- という母音の連接が見られます。こちらは同じ母音が続くので、それを避けるために一方の a を脱落させて、カラヰの形を生むことになるはずですが、そのような語形の存在は文献上に確認できません。

このような母音連接を回避しようとする力は、古代の日本語では強くはたらいていましたが、奈良時代以降は次第に弱まっていきます。

クレノアヰがクレナヰに転じたのに対して、カラアヰにはそれが見られないのは、この植物の日本渡来の時期がクレノアヰよりも遅かったために、その名前に含まれる母音連接を忌避しようとする力が強くははたらかなかったことによるのではないか。カラアヰの渡来について、こんなことを考えてみました。(この項終わり)
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 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0(2nd generation)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2008-09-27 07:54 | 言語・文化雑考


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