2008年 10月 04日
ある時、式部がこの魚を美味そうに食べているのを見て、夫の宣孝(のぶたか)が、そんな下魚を食べるのはみっともないとひやかしたところ、彼女は即座にこんな歌を詠みました。 日の本にはやらせ給ふ石清水 まゐらぬ人もあらじとぞ思ふ この和歌は、「石清水」と「いわし」を掛詞にして、《参詣する》の意の「まゐる」に、尊敬語としての《召し上がる》の意を持たせたもので、こういう内容にあたります。 この日本では、石清水八幡神宮がたいそうな人気で、お参りしない人はおそらくいないだろうと思います。その石清水と同じ音のイワシもまた、召し上がらない人は、たぶんいないはずです。 この話は、室町末期に成立した御伽草子『猿源氏草紙』に、和泉式部とその夫であった藤原保昌(やすまさ)のこととして載るので、それが後に紫式部の話にすり替わったものと思われます。その際に、イワシを女房ことばでは「むらさき」と言ったことも、この話を紫式部に結びつける原因になったのかもしれません。 ところで「石清水」の仮名は、古くは「いはしみづ」ですが、「イワシ」の方は現代かなづかいと同じく、もとから「いわし」でした。そうすると、語中尾のハとワに発音の区別があった時代ならば、両者は別音ですから、この二語は掛詞としては使えません。 日本語史の立場から言えば、この話が作られたのは、この両語を掛詞にしても違和感を覚えない時代のことであったということになります。 ただ、上の二人の女性はともに平安後期の人物で、その時代にはすでに語中尾のハとワは同音になっていましたから、イワシは逆に「いはし」と書かれることもあったはず。そうすると「いはしみづ」とは仮名が同じと見なされることになりますから、この掛詞を使ってもおかしくはないことになります。 *撮影機材:R-D1+NOKTON classic40mm f1.4 (S・C)
by YOSHIO_HAYASHI
| 2008-10-04 08:15
| 言語・文化雑考
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