2008年 11月 01日
「いそいそ」 (3)
f0073935_512015.jpg
ネット検索の網にかかった「いそいそ」の中には、《急ぐさま・あわただしいさま》の意を広げたり、さらに別の意味に用いたりしたかと思われるような例も含まれています。



いそいそとストーブをひっぱり出してきたり、毛布をもう一枚重ねたり。せっせとジャムを作ったり、シチューをことこと煮こんだり。

いそいそと冷凍庫から保冷剤を取り出し、せっせと顔を冷やし、むくみをとる。人様に見せられる顔になったところでメイク開始、いつもより張り切って会社に向かう。


上記2例は、「いそいそ」を《忙しげなさま》を言うのに用いています。すぐ後に「せっせと」を併用している点からも、この意味にあたることが知られます。このような例は「いそいそ」の新しい意味領域をさらに広げたものと解することができますが、次の例はどうでしょうか。

20時59分、10番線に青い車体がいそいそと入線…。そう、ふるさと列車『出雲』…。

列車が「いそいそと」入線する、というところがよくわかりません。こういう状況ならば、列車の速度はそんなに早くはないはずだから、「ゆっくりと」「しずしずと」などの表現が期待されるところです。しかしそうだとすると、上記とは逆の意味に用いたことになり、疑問が残ります。それとも上記2例と同じく《忙しげに》の意味に用いたものか。

私たちがいそいそと明るく日々を生きていくのに、いそいそと生きる心意気こそいちばんたいせつなものだ。

この使い方もよくわからない。「いそいそと」が「明るく」を修飾しているところから見て、これをプラスの意味に用いていることは明らかです。あるいはこの例、「いきいきと」への類推がはたらいたものか。

こんな具合に、現代日本語の「いそいそ」には、今まさに我々の気づかないところで意味の変化が起きつつあります。ひょっとすると、近い将来、辞書の語義解説の記述に、新しい項目が加わるようにならないとも限らない。

旧世代の目には、こういう現象は"日本語の乱れ"と映るかもしれませんが、ことばの意味というものはいつの時代にも、常にこんな風にして変化を遂げてきたものなのです。 (この項終わり)
f0073935_5121210.jpg
f0073935_5122222.jpg

  *撮影機材:R-D1+NOKTON classic40mm f1.4 (S・C)
[PR]

by YOSHIO_HAYASHI | 2008-11-01 05:09 | 言語・文化雑考


<< 吉祥寺街歩き      「いそいそ」 (2) >>