2008年 11月 09日
ヒシャク(柄杓) (4)
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「従者」の拗音ジュ・シャが、「ず・さ」のように1字の仮名で表されることを、(拗音の)直音表記 と呼ぶことにします。



このような直音表記が見られるのは、漢語だけとは限りません。

鎌倉末期、1331年頃の成立とされる『徒然草』には、クシャミが出た時に、まじないに「くさめ、くさめ」と唱えないと死ぬという伝承のあったことが記されています。

クシャミ(嚔)という語は、このまじない言葉の「くさめ」から生まれたとされますが、これもまた上記の直音表記の例にあたるものと見てよいでしょう。

徒然草にはまた、いま問題にしているヒシャクの仮名表記例も見えます。

琵琶の弦を支える柱(ぢう)の代わりにヒシャクの柄を用いることを話題にした話の中では、それが「ひさくの柄」と記されています。

この時代の「さ」の仮名がどのように発音されたのかについては、決め手に欠けるところがあるので、ここに出る「ひさく」がヒシャクと読まれたのか、それとも現代の読みと同じく、すでにヒサクであったのか、簡単には決められません。

ただし、これよりさらに下った時期、1603年に出版された、キリシタン資料『日葡辞書』には、次のようにあります。(『邦訳日葡辞書』<岩波書店>による。漢字・仮名は訳者のもの)

 Fixacu. ヒシャク(柄杓) ココ椰子の実の殻で作った容器のようなもので,柄がついており,
 水を汲むもの.


一方、これに対する Fisacu.(ヒサク) の語形は、この辞書に見あたりません。徒然草の例に見える、「ひさく」の仮名書き例についても、音声としてはヒシャクであったと考えるのがよさそうに思われます。 

ちなみに日葡辞書では、前記の「くさめ」についても、拗音形のみを載せていることが確認されます。

 Cuxami. クシャミ(くしゃみ) Fana fiqu,l,firu coto.(鼻ひく,または、ひること). くしゃみ.
 Cuxxame. クッシャメ(くっしゃめ) 子どもがくしゃみをすること.


後の例は、1604年に追加された補遺篇に見えるものです。 (この項続く)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2008-11-09 07:03 | 言語・文化雑考


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