2008年 11月 10日
ヒシャク(柄杓) (5)
前回の記事に引用した日葡辞書の Fixacu. (ヒシャク) の項には、「ココ椰子の実の殻で作った容器のようなもの」とありました。この「ココ椰子(原文 coco )」とは、訳者注によれば、「瓢箪(ひょうたん)」と同義に用いられる訳語とのことです。



   ①         ②
f0073935_16502037.jpgf0073935_16505357.jpgヒシャクという語は、瓢箪の和語にあたる「ひさこ」から出たとされています。上記の記事はこのことに照応するものです。

「ひさこ」は、後代に濁音化してヒサと発音されるようになります。そのことは、日葡辞書においても、「カンピョウ(干瓢)」に対して Fosu fisago.(干す ひさご)、「イッピョウ(一瓢)」について Fitotcuno fisago.(一つの ひさご)という具合に、「瓢」の字にヒサの訓を与えているところからも知られます。

これに対して、この語の第三拍が古くは清音であったことを示す証拠があります。左の画像は、1241年の奥書を持つ漢字字書『観智院本類聚名義抄』の本文写真です。

①は《瓢箪》、②は《柄杓》の意を表す漢字が見出しに掲げられ、その読み仮名の「ヒサコ」の「コ」には、清音であることを示す単点の声点が施されています(濁音表示には「・・」の形の複点が用いられます)。このことから、当時はどちらの意を表す「ひさこ」も、その第三拍を清音に発音したことが知られます。

ちなみに、この画像に見える二つのヒサコのヒを見ると、アクセント表示の役割をも兼ねた声点の位置が異なることに気付きます。仮に両語のアクセントが異なっていたとすると、二つのヒサコは別語だった可能性も出て来ます。

しかし、この字書の出典となった『和名類聚抄』諸本の中の前田家本には、「杓」の項に、万葉仮名で「比佐古(ヒサコ)」の和訓が施され、第一拍の「比」には上の①と同じ左下の位置に声点が見えるので、②のヒの声点は誤った位置に施されたものであり、別語と見なくてもよいことになります。 (この項続く)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2008-11-10 06:21 | 言語・文化雑考


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