2008年 11月 11日
ヒシャク(柄杓) (6) 【追記アリ】
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これまで見てきたところから、ヒシャクは漢語ではなく《瓢箪》を意味する和語の「ひさこ」から生まれたことばであることが確認されました。



韓国では今でも、上の画像に見るように、材質はおおかたプラスチックに変わってはいるものの、小さなカメに入った濁酒のマッコリを汲むのに、ヒョウタンを縦割りにした形の"柄杓"が用いられています。これは、ヒョウタンがヒシャクの役目を果たしていた時代の姿を今に留めるものです。日本でも、初めはこういう形体のものを「ひさこ」と呼んだはずです。

それはさておき、そのヒシャクの原形にあたる「ひさこ」が、古くはヒシャコと発音されていたと考えると、それが後にヒシャクに変化して、現代まで受け継がれてきたと説明することができます。また、第三拍がコからクに変わっても、それが依然として清音であるところには原形が残っていると言えますね。

一方、《瓢箪》の意を表す「ひさこ」の方は、後に第三拍が濁音化してヒサゴに変わりますが、この方にはヒシャゴという語形は確認されません。こちらは、拗音が保存されず、語末音も清音から濁音に転じています。

それでは、語源を同じくするはずのヒサゴとヒシャク、その第二拍に直音と拗音の違いがあるのはなぜでしょうか。

ヒシャクは、そのことばも物自体も、つい最近まで生活の中で絶えることなく使い続けられてきました。一方、ヒサゴの方は、後にその漢語にあたるヒョウタンにとって代わられてしまった*ために、次第に生活から遊離したことばになっていったと考えられます。

*【追記】 ヒョウタンを指す名称としては、「ふくべ」という別の和語もあります。これもまたヒサゴを日常語から遠ざける役を果たしたと言えそうです。ただしそのフクベもまた、ヒョウタンによって同じ憂き目を見せられることにはなりますが・・・。 (2008.11.12)

そうなると、《瓢箪》を指す「ひさこ」ということばに接するのは、音声ではなく文字を通じて行われるようになっていきます。文字を通してこの語形が伝承される間に、一般的な音声の面では「さ」の発音がシャからサへ変化を遂げます。それに応じて、「ひさこ」の第二拍もまた、本来のシャからサへと姿を変え、さらにそれとは別に、第三拍が濁音化してヒサゴの形に変化した・・・。

ヒシャクとヒサゴは、こんな道筋をたどって別のことばになったと私は考えます。
(この項続く)

*撮影機材:RICOH GR-DIGITAL 28mm f2.4
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by YOSHIO_HAYASHI | 2008-11-11 20:34 | 言語・文化雑考


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