2008年 11月 27日
「おいさき短い」ということば (3)
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前回引用した鴎外の「最後の一句」に見えるような、このことばを《生い先》の意味に用いた例は、かなり古くから見ることができます。



走り来たる女子(をんなご)、あまた見えつる子どもに似るべくもあらず、いみじうおひさき見えて、うつくしげなるかたちなり。 

これは『源氏物語』若紫の巻に見える例。光源氏がひそかに思いを寄せる藤壷、その女性によく似た少女(後の「紫の上」)を初めて見た時の印象を述べたくだりです。

その少女は、他の大勢の子どもとは比べようもないほど愛らしい顔立ちで、美しく生い立つことが今から予想される。ここに出る「おひさき」は、このような《成長していく行く末》の意味に用いられています。

源氏物語には、このほかに「おひさき有り」「おひさき籠もれる」などの形で使用された例もあり、「おひさき」ということばは、将来性が豊かであることをいうのに多く用いられたことが知られます。ただし、一方には、前途に希望が少ないことを言う「おひさき少なし」「おひさき無し」などの例もあるので、常にそうと限られるわけではありません。

しかし、いずれにせよ、それらはすべて《生い先》の意を表す「おひさき」の例であり、《老い先》に相当する「おいさき」の例は、同時代の他の文献を含めても、まったく見つからないことが注意されます。 (この項続く)
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 *撮影機材:R-D1+NOKTON classic40mm f1.4 (S・C)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2008-11-27 07:10 | 言語・文化雑考


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