2008年 11月 29日
はつちゃう嶋に住み果て、稚子(わこ)たちの老前(オイサキ)をも見給へかし。 これもまた『日本国語大辞典』に載るもので、馬琴の『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』(1807-1811)に出る例。片仮名で示した読み仮名は原典に施されたもの。ここでは「老前」が「稚子たち」の将来性を言うのに使われていますが、本来ならば「生前(先)」の表記が期待されるところです。 このような例は江戸期の他の文献にも確認されます。ここから、次のようなことが考えられます。 すなわち、古くは《生い先》の意を表した「おひさき」が、その発音がオヒサキからオイサキに変化したのに合わせて、次第に《老い先》の意に解されるようになり、その漢字表記も「生先(前)」から「老先(前)」へと変化する道筋を歩んだものと推察されます。 なお、このことばが《老い先》の意味に転じても、現代の慣用句として用いられる「老い先短い」がただちに生まれたわけではありません。上記の辞典には、徳田秋声の『黴(かび)』(1911)に出る次の例が引用されています。 老先の短い田舎の母親、自分の事業、子供の事も考へなければならなかった。 この表現が慣用句として定着したのは、この例が示すように、およそ明治末期以降のことであったと考えられます。 それが今後ひょっとすると、「おいさき短い」の存続が怪しくなって、この項の冒頭に示した「あとさき短い」に取って替わられるような事態が起きないという保証はありません。 ことばは変化するものである、そのことは、ここまでの記事がその一端を示しています。 それは十分承知の上でなお、取って替わってほしくないことを願いつつ、この項を閉じることにいたします。 *撮影機材:R-D1+NOKTON classic40mm f1.4 (S・C)
by YOSHIO_HAYASHI
| 2008-11-29 07:07
| 言語・文化雑考
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