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2010年 03月 30日
シタダミからフゲシへ -ツィッターの話題から- (10)
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最後に、さきの(6)で触れた本居宣長『地名字音転用例』の問題に戻って、この項を終えることにします。

宣長はこの著作の中で、能登国の郡名「鳳至」を「不布志(ふふし)」とする元和本『和名類聚抄』の本文に基づき、この地名表記に「鳳」字を用いたのは、字音フウの韻尾ウをフに転用してフフに宛てたものと見なしました。

しかし前回までの検討の結果、「鳳至」は古くから「フゲシ」と読まれていたと見るべきであり、この点については宣長の説は訂正されなければなりません。

とは言え、宣長の説くところは基本的には正鵠を射ています。

フゲシという地名が「鳳至」と表記されるに至ったのは、和語としての地名に /フゲ+シ/ という分析を加えて、その/フゲ/に「鳳」を、/シ/に「至」を宛てたことによるものです。

そのような「好字」を選んだ結果として、この地名に《鳳が至る》という意味が生じましたが、それはあくまでも漢字の音を借りた表記に意味を持たせたに過ぎないものであり、この地名に本来そのような意味が備わっていたと考えるのは、本末転倒の誹りを免れません。

/フゲ/という和語の単位を表すのに「鳳」字を用いたのは、この漢字の字音韻尾が鼻音 -ng であり、それが第二拍の /ゲ/ を表すのに都合がよかったからです。ちなみに「鳳」の朝鮮字音 " (bong)" にはこの韻尾が残存していますが、日本語ではそれが後に u の音に転じたために、現在ではこの字に「ホウ」の音読みが用いられています。 (この項終り)

冒頭の画像は先日の旅先で信号待ちの間に車窓から撮ったモクレン。茨城県牛久市で見かけたものです。

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*撮影機材:RICOH GR-DIGITALⅡ 28mm f2.4
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by YOSHIO_HAYASHI | 2010-03-30 07:14 | 言語・文化雑考
2010年 03月 24日
シタダミからフゲシへ -ツィッターの話題から- (8)
f0073935_7104954.jpg前回に示したように、二十巻本『和名類聚抄』本文における能登国「鳳至」郡の読みが、元和三年古活字版には「不布志(ふふし)」とあり、このことに不審が残ります。この点について二十巻本の古写本の本文を調べてみました。

ちなみにこの古辞書には、別系統に属する十巻本もありますが、こちらには「国郡部」が収められていないので、参考にすることはできません。なおこの点については、原本にあった「国郡部」が後に省かれたのか、それとも原本成立後に増補されたものかをめぐる諸説があります。私は後者がよいと考えますが、この問題にもここでは深入りしません。

左に掲げるのは、永禄九年(1566)に書写された、名古屋市博物館所蔵『和名類聚抄』の該当箇所の画像です(同博物館1992年発行複製本による)。

これをこの項(2)に掲げた元和三年古活字版の本文と対比させてみると、後人の手の加わっていることが分かります。元和版にはなかった郷里名がそれぞれの郡名の下に加えられている反面、本来は万葉仮名で表記されていた郡名の読みが片仮名による振り仮名形式に改められていますね。

さて、問題の「鳳至」に施された読み仮名は「フケシ」とあります。ここには濁点は施されていませんが、現在のフゲシに相当するものと見てさしつかえないでしょう。

この資料は、「鳳至」の現在の呼び名がすでに16世紀中頃には存在していたことを証拠付けるものです。 (この項続く)
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by YOSHIO_HAYASHI | 2010-03-24 07:15 | 言語・文化雑考
2010年 03月 21日
シタダミからフゲシへ -ツィッターの話題から- (7)
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元和三年古活字版『和名類聚抄』には、能登国の郡名「鳳至」に「不布志(ふふし)」の読みが施されているので、私は最初、このフフシが古い形であって、現在のフゲシはこれから転じたものと受けとめました。しかしよく考えてみると、この万葉仮名表記には、いささか不審なところがあります。

お手数ですが、この項の(2)に画像として掲げた「能登国」の記事をもう一度御覧ください。「鳳至」の次に「珠洲」の郡名があり、これに「須々」の付訓が見えますね。現在もそう呼ばれているように、これはスズの読みを示すものです。

ちなみにこの古辞書では、清濁の書き分けをせずにこのように同じ万葉仮名を用います(このことについてはまた別の問題がありますが、ここでは話の錯綜を避けて省略します)。

このスズが「須々」の形で表されているように、同じ仮名で書かれる読みを示す際には、「々」の記号を用いるか、あるいは直前のと同じ万葉仮名を用いるのがこの辞書の方針です。

例えば、漢字表記の同じ地名で、大隅国「桑原」の郡名に「波々(くはばら)」とあるのは前者の例であり、信濃国諏訪郡の「桑原」に「波波」の形で示されているのは後者の例にあたります。

この方針は徹底して守られており、同音節の連続する地名には、必ずどちらかの表記方式による読みが施されています。

ところが「鳳至」における「不布志」の読みには、同じフの連続に対して「不布」という異なる万葉仮名が使用されていて、他の多くの例とは異なる点に不審が残ります。 (この項続く)

今朝は当季の季語にあたる「春疾風(はるはやて)」が列島を吹き抜けていきました。皆さんのところには被害はありませんでしたか。

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*撮影機材:PENTAX K-7 +SIGMA17-70mm f2.8-4.5 DC MACRO
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by YOSHIO_HAYASHI | 2010-03-21 06:34 | 言語・文化雑考