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2009年 08月 06日
「み」あれこれ (10)
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『日葡辞書』よりも後の蕉門作品の中にも、「ヒク」・「ヒキ」の両形が認められます。



芭蕉句選拾遺』に収める芭蕉の俳文「杵折(きねのおれ)の賛」は、貞享二年(1683)から元禄四年(1691)の間の作とされるものですが、そこに次の用例があります。

人またかくのごとし。高(たかき)に居て驕るべからず。ひきゝに有てうらむべからず。

ここには古い形の「ひきき」が用いられています。

一方、「笈の小文」の旅に出発する芭蕉への餞別吟として、貞享四年(1685)十月十一日に其角亭で興行された十一吟世吉(よよし/四十四句で構成される連句)の「旅人と」の巻には、次の例が見えます。

   魲(すずき)*てうじておくる漢舟(からぶね)   観水    *てうじて…調理して
 神垣や次第にひくき波のひま             全峰

こちらには新しい形の「ひくき」が用いられています。

後者が連句の付合における使用例であるのに対して、前者は擬古的に綴られた文中に出る用例であり、ここに古い「ひきき」の形が用いられているのは、そのような文脈にふさわしい語形という意識に支えられた用法にあたるものと見るべきでしょう。

同じ文語形容詞の「低し」であっても、「ひくし」と「ひきし」の間には新古の意識がはたらいていたものと思われます。 (この項続く)

*撮影機材:R-D1+NOKTON classic40mm f1.4 (S・C)

by YOSHIO_HAYASHI | 2009-08-06 07:00 | 言語・文化雑考


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