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2009年 08月 13日
文音歌仙「マロニエ」の巻(校合・清書)
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一巻満尾の後に全体を見直して、付合や表現に関する不備な点を改める「校合(きょうごう)」の作業を行い、付合の間に行った手直しとは別に、下記の箇所に改訂を加えました。



① 初表
 第三 地下酒場階段降る打連れて
   四  卓囲むには足りぬメンバー
   五 ドライブの話長引く宵の月


このあたり、転じがいささか乏しくて三句の内容が連続する「三句がらみ」の印象が残ります。

その大きな原因は、自他を交えた複数の人間が登場する「人情自他」の句が三句続くために、それらが一続きの話のようになってしまっているからです。"前句の続きを言うな、説明をするな"は付合の鉄則というべき戒めです。

その難を和らげるべく、第三を次のように改めました。

    地下酒場階段降る足早に

こうすれば、第三は他者の登場しない「人情自」の句になるので、上記の難をいくらかでも逃れることができそうです。ただその際に、五句目の場景は地下酒場とは異なる場所のものと見なさなければなりません。

ところがそうすると今度は、これに続く四句目にも同じ「足」の字があるために、「同字」の障りを生じます。そこで、いささか姑息な手段ですが、四句目の「足りぬ」を仮名書きで「たらぬ」と改めることにしました。

② 名残裏
 折立 稲架場より小走りをする仕舞時
 二    泣き止みし児の寝顔安らか
 三  おしゃべりはジャズの流れる喫茶店
 四    ピアノに挑む古希の手習
 五  ももとせの樹齢ゆたかに花盛り
 挙句  盃めぐる曲水の庭


二句目は、昨日の記事に示したように、付合の途中ですでに手を加えてありましたが、それとは別に、名残裏の六句の留めがすべて名詞またはそれに準じる詞が続くところも気になります。その印象を和らげるために、五句目の下五を「花盛り」から「花満ちて」に改めました。

これらの改訂を加えた一巻の清書をご覧に供します。なお、開巻以降の運びを一括して御覧になりたい場合には、このページの最後にある "Tags." の中から[マロニエの巻]をクリックして下さい。

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       いわき文音三吟歌仙『マロニエ』の巻
                                   宗海捌
 発句 マロニエの花房凛と立ちにけり     禿山 初夏
 脇    驟雨の過ぎて緑濃き街         笑女 三夏
 第三 地下酒場階段降る足早に        宗海 雑
 四    卓囲むにはたらぬメンバー        山 雑
 五  ドライブの話長引く宵の月          女 三秋/月
 折端   西も東も山装ふ頃             海 三秋
初裏
 折立 あばら家に板囲ひして冬を待つ      山 晩秋
 二    野菜いろいろ仕込む漬物        女 三冬
 三  朝風呂はリタイア組の国自慢        海 雑
 四    海外旅行何処へでも良し         山 雑
 五  新型の病魔はびこるきのふけふ      女 雑
 六    別れのキスはなしにしませう       海 雑/恋
 七  肩寄せて仰ぎ見る空月涼し         山 三夏/月/恋
 八    風鈴ひびく路地の店先          女 三夏
 九  お駄賃で買ふおはじきとハッカ飴      海 雑
 十    友達出来ぬ街の学校            山 雑
 十一 マラソンのゴールに開く花の門       女 晩春/花
 折端   気球浮かびて空はうららか        海 三春
名残表
 折立 大の字に寝る砂浜に雲雀鳴く        山 三春
 二    昼の食事は餃子定食           海 雑
 三  スーパーの買物籠は軽くなり         女 雑
 四    横断歩道通す黄の旗            山 雑
 五  半日をフリー切符の寺めぐり         海 雑
 六    枯菊を焚く煙ひと筋             女 三冬
 七  見下ろせば入江に住居二つ三つ      山 雑
 八    嫁入先は武士の家柄           海 雑/恋
 九  グレースは世紀の恋とはやされて      女 雑/恋
 十    メロドラマよりちゃんばらが好き      山 雑
 十一 新しきアンテナ並ぶ屋根に月        海 三秋/月
 折端   峰の雲間を鴈渡り来る          女 晩秋
名残裏
 折立 稲架場より小走りをする仕舞時       山 晩秋
 二    泣き止みし児の寝顔安らか        海 雑
 三  おしゃべりはジャズの流れる喫茶店     女 雑
 四    ピアノに挑む古希の手習          山 雑
 五  ももとせの樹齢ゆたかに花満ちて      海 晩春/花
 挙句  盃めぐる曲水の庭             女 晩春
                        起首 2009.05.08
                        満尾 2009.07.25

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*撮影機材:RICOH GR-DIGITALⅡ 28mm f2.4

by YOSHIO_HAYASHI | 2009-08-13 04:54 | 詩歌管弦


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