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2006年 04月 17日
じゃり(砂利) (6)
じゃり(砂利) (6)_f0073935_731762.jpg 古代日本語では「じゃり」のことを何と呼んだのでしょうか。
 『万葉集』に次の例があります。

  左射礼伊思に駒を馳(は)させて心痛み
     我が思(も)ふ妹(いも)が家のあたりかも
  (三五四二)

  信濃なる千曲の川の左射礼思
     君し踏みてば玉と拾はむ
     (三四〇〇)

 ともに巻十四に収める東国地方の歌で、「相聞歌(そうもんか)」と呼ばれる、男女の愛をうたったものです。

 下線部分は、原文の万葉仮名表記をそのまま引用したもの。最初のは「さざれいし」、二番目は「さざれし」と読まれます。サザレイシが原形、語中の母音連接を避けて縮約された形がサザレシです。
 二つの語を構成する「さざれ」という要素は、《小さい・細かい・わずかな》などの意を表すもので、「さざなみ」(古くは「ささなみ」)の類義語にあたる「さざれなみ(細波)」にもこれが含まれています。



 また、『古今和歌集』巻七「賀歌」の部に収める「よみ人しらず」の歌で、日本国歌「君が代」のオリジナルにあたる作品にもこの語が姿を見せます。

 わが君は千代に八千代に
    さざれ石の巌となりて苔のむすまで
   (三四三)

 ここで、小さな石が巨大な岩になるとしているのは、科学の目から見ればあり得ないことですが、古代人には、若木が成長して巨樹になるように、「さざれいし」もまた「いはほ(巌)」に育つものと考えられていました。

 ただし、それには「千代」「八千代」という、気の遠くなるような時間を必要とします。
 いつまでも長生きしてくださいと、敬愛する人の長寿を祝う賀の歌に、これはまことにふさわしい素材でした。

(この項続く)

 *撮影機材:R-D1+NOKTON classic SC 40mm f1.4

by YOSHIO_HAYASHI | 2006-04-17 07:06 | 言語・文化雑考


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