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2006年 05月 08日
「みぢゃげど」追考(7)
「みぢゃげど」追考(7)_f0073935_4262864.jpgさきの追考(4)に示した「 2)みぢゃげ+ど」の分析には、前回とは別の解釈を導く可能性も含まれています。

「ど」を《処》の意に解する点は、追考(5)と変わりありませんが、そこで示した「みづ・○げ」の「○げ」に「あげ」を想定し、「みぢゃげ」を「みづ《水》あげ《揚》」の縮約と見るのがそれです。




これに従えば、「みぢゃげど」は《水を汲み上げる場所》の意を表すことになります。

《台所》を直接このように呼ぶ例は、他の地方には見あたりませんが、岩手・島根方言に《田に水を引く》、あるいは大分方言に《谷から水をくみ、運び上げる》の意を表す「みずあげ」のあることは、いちおうの参考になります。

ただしこの仮説には、「みづあげ」が「みぢゃげ」に転化するかどうかという点に関して、見過ごすことのできない問題があります。

ヅアゲには -ua- という母音の連続が含まれていますが、このような場合には、先行母音 u が脱落してミゲになる*1か、あるいは ua が他の母音 o に転成してミゲになるか*2のいずれかであり、これが拗音節を含むミヂャゲに転ずるということは、理論的に認めがたいからです。

なお、ヅとズの発音の区別が失われたのちに、ミアゲがミアゲになり、さらにそれがミザゲに転じ、そこからミジャゲが生まれたと解する案が出されるかもしれません。

しかし、ヅとズの区別が失われたのは、中世後期から近世初期にかけてのことで、この案では、その時期までは -ua- という母音連続が許されていたことが前提になっていますが、これはあり得ない想定です。

したがって、上記の仮説もまた、音韻史の面から見れば、認めがたい解釈というほかはありません。(この項続く)

(注) *1 eg. カク《斯》アル《有》>カカル   *2 eg. サス《刺》アリ《蟻》>サソリ《蠍》

*撮影機材:R-D1+SUMMARON MLmount 35mm f2.8

by YOSHIO_HAYASHI | 2006-05-08 04:31 | 言語・文化雑考


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