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2006年 05月 09日
「みぢゃげど」追考(8)
「みぢゃげど」追考(8)_f0073935_4582712.jpg前回までは、追考(4)に掲げた「 2)みぢゃげ+ど」の分析を吟味してきました。残念ながら、ここまではほとんど思わしい結果を得るに至っていません、

そこで最後に、残されたもう一つの解にあたる「 1)みぢゃ+げど」について考えることにします。

こちらはすでに取り上げたように、「みぢゃ」を《水屋》の意と見る立場ですから、残る問題は「げど」をどのように解するかにあります。



これまで何度も引用してきた『日本方言大辞典』には、「けど」の親見出しのもとに、次のような語義・用例および使用地域が記述されています。それらを整理して示します。

 《山中の仮小屋》
   「いしけど(自然岩が雨露をしのげるように突出してできた室)」<青森県上北郡>
   「けどぶつ(またぎが小屋を掛ける)」<秋田県雄勝郡>
   「けと」<青森県上北郡>
   「けどごや」<青森県三戸郡>
 《漁小屋》
   「けと」<青森県南部>

ここに示された語義には、《山中》や《漁》という限定がありますが、これらはあとから生じたものと見るべきでしょう。

上記の「いしけど」は「いし《石》+けど《小屋》」、「けどぶつ」も「けど《小屋》(ヲ)ぶつ《建てる》」の意であることは明らかであり、「けど」の原義が単に《小屋》であったことを示しています。また、「けどごや」は、「けど《小屋》+ごや《小屋》」と類義語を重複させた形の複合語ですが、これは「けど」の語源忘却により、新たに「こや」を添加したことから生じた"重言"と見ることができます。

これらの例により、津軽・秋田地方には《小屋》を指す「けと・けど*」の存在する(した?)ことが確認されました。

*(注)これらの語源は明らかでありませんが、「かいと(垣内)」あるいは「かいど(垣外)」の縮約したものかと思われます。

問題の「みぢゃげど」も、この「けど」を含んだ語と解することができそうです。

ただし、「みぢゃげど」では「ど」が「ど」の形をとっていますが、これは追考(5)に記した濁音化によるものと見ておくことにしましょう。そこで触れたように、「みぢゃげど」の「げ」が鼻濁音かどうかが問題になりますが、これは言語使用者から直接確かめるしかありません。後日の課題として残すことにします。

これまで見てきたことから、問題の「みぢゃげど」は、「みぢゃ《水屋》」と「けど《小屋》」の複合した津軽方言と解するのが、もっともふさわしいと考えられるに至りました。

ここまでの長談義にお付き合いくださり、ありがとうございます。
ご質問・ご批判をお待ちしています。(了)

*撮影機材:R-D1+SUMMARON MLmount 35mm f2.8

by YOSHIO_HAYASHI | 2006-05-09 04:59 | 言語・文化雑考


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