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2006年 06月 26日
地口行燈 #4-5
地口行燈 #4-5_f0073935_4324286.jpg『東海道中膝栗毛』の会話文で、江戸を出て小田原に至るまでの地域では、もっぱら「ござる」系が使われています(以下カッコ内は巻名と現在の地名)。

・これはおまちどふさまでございやした(初編・横浜)
・手はもげてもよふございます。おとまりなさいませ(同・保土谷)
・あなたがたはお泊りでござりますか(同・小田原)




ところが箱根にさしかかるあたりから「ござる」系に混じって「おざる」系が登場します。

・(婆) ハイ/\これでおんざりますか(初編・箱根湯本)
・(娘)ハイ/\おたばこ入でおざりやんす( 同 )
・(娘)もふそつと(=もうちょっと)でござりやんす( 同 )
・(爺)かうのもん(=香の物)はござらねへが、むめぼしよヲ進ぜますべい(二編上・箱根山)

ここで注意されるのは、「おざる」の語形に婆と娘の年代差による相違が見られることと、娘が「おざる」「ござる」両系を混用している点です。

さて箱根の関を越えると、今度は「おざりやす(おざいやす)」「おざります(おざいます)」などの形を交えた「おざる」系が優勢になっていきます。

・おやすみなさいまァし。くだり諸白*もおざりやァす(二編上・三島)
・廿四文のもおざいます (同・沼津)
・名物さとうもちよヲあがりやァせ。しよつぱいのもおざいやァす(二編下・由比)
・てうじや(=丁字屋)へばつかしおざるから、とこなつさんが腹ァつつたつも、むりじやァおざりましない(同・静岡)
・ナニ、まんだ八ツすこしすぎでおざりまさァ(三編上・日坂)
・干大根のおすいものもおざりまァす(三編下・掛川)
・ずいぶんおざります(同・浜松)
・モシだんなさま、ちとおねがひがおざります(四編上・浜松)
・よい諸白もおざりまァす(四編下・岡崎)

 *(注)上方から送られてくる、精白米を原料とする上酒。   (この項続く)
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  *撮影機材:R-D1+NOKTON classic40mm(SC) f1.4

by YOSHIO_HAYASHI | 2006-06-26 04:35 | 言語・文化雑考


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