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2006年 09月 18日
「飽く」vs.「飽きる」 #1
今日は、写真をアップしようとするとなぜかエラーが出てしまうので、文字だけのすっぴん状態でお目もじいたします。



昨日の記事に、猫町二丁目さんから、関西方言に古語が残っていることに関するコメントを頂きました。その一部を引用させていただきます。

> 帰る→いぬ(往ぬ) 飽きる→あく
> これはワカイコの普通の言葉です。ダメという意味の「あかん」も「らちがあかぬ」だったかも
> 「これあかんわ、続いたらあくわ」「ほなそろそろいのか」(ゲームセンターの会話)となります。

本件をさっそく話の種に頂戴します。

文法のおさらいをすると、上記の「あかんわ」は未然形、「あくわ」は終止形。つまり、現代の関西方言では、この動詞は「(あ-)か・き・く・け・こ」と五段型の活用をすることがわかります。

一方、日本の東の地域では、「あきない」(未然形)、「あきた」(連用形)、「あきる」(終止形)のように、「(あ-)き・き・きる・きる・きれ・きろ」の上一段型に活用します。

芥川龍之介が「芋粥」の典拠としたことで知られる『宇治拾遺物語』(1221年頃成立)の「利仁(としひと)芋粥事」の話では、この動詞が次のように用いられています(岩波文庫本による)。

利仁これを聞きて、「太夫殿、いまだ芋粥にあかせ給はずや」と問ふ。
五位「いまだあき侍らず」といへば、「あかせ奉りてんかし」と言へば、「かしこく侍らん」とてやみぬ。


ここに出る「あく」も、「あかせ給はず」(未然形)、「あかせ奉りてんかし」(未然形)、「あき侍らず」(連用形)というぐあいに、現代関西方言の五段型の前身にあたる四段型の活用をしています。

歴史的に見れば、四段(五段)型の「あく」が奈良時代以降の古形を留めるもので、現在共通日本語として用いられる上一段型の「あきる」は、近世後期ごろに江戸で生まれた"出来星(できぼし)"にあたります。

by YOSHIO_HAYASHI | 2006-09-18 10:45 | 言語・文化雑考


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