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2006年 09月 20日
「飽く」vs.「飽きる」 #3
1881年に発行された『小学唱歌集』に収める唱歌のなかに、今でも子どもたちに歌われている「蝶々」があります。



 ちょうちょう ちょうちょう。
 菜の葉にとまれ。
 なのはにあいたら、桜にとまれ。
 さくらの花の、さかゆる御代に、
 とまれよ あそべ。あそべよ とまれ。

なお、この歌詞の4行目後半には後に改訂が加えられ、現在歌われている「花から花へ」の形に変わりました。

「なのはにあいたら」の「あい(たら)」は、四段動詞「飽く」の連用形「あき」が音便化した形です。このような音便化は四段型だけに見られる現象ですから、上一段型の「飽きる」を用いる日本の東の地域の言語では音便化は起きず、その連用形には「あき(たら)」が用いられます。

つまりこの歌詞には、日本の西の地域に用いられる言語の特徴が反映していることになります。

「蝶々」の作詞者は、野村秋足(あきたり)。彼が愛知県の師範学校に教員として勤務していた時に校長の命を受けてこの歌詞を作り、スペイン民謡の原曲に合わせて小学校で歌わせたものです(『日本唱歌集』<岩波文庫>による)。

野村秋足は名古屋市に生まれた人物です。名古屋は日本語を東西の区域に分ける境界にあたる地域ですが、この例について言えば、この言語使用者には関西系の言語の特徴が見られることがわかります。

ちなみにこの唱歌は、日本の朝鮮統治時代にハングルに翻訳して小学校で教えたものが、現在でも歌い継がれているそうです。

実はその地の共同研究者との打合せなどがあって、今日から一週間ほど韓国に出かけてきます。かの地にいる教え子たちとの談話の折にこの話題を出そうと思っています。時間があれば、向こうからも記事や写真をアップできるかもしれませんが、はたしてどうなることやら。

ともあれ、しばらく留守にいたします。

by YOSHIO_HAYASHI | 2006-09-20 06:40 | 言語・文化雑考


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