2006年 10月 22日
ブログご常連の皆さまから寄せられた昨日の記事に対するコメントに力を得て、話題の中心動物タヌキの跡をもう少し追ってみることにします。いささかペダンティックに流れる嫌いのあることを、あらかじめお許しください。 kokichiさんのご紹介くださった、タヌキの登場する俳諧を私も探してみたところ、芭蕉連句にその一つの例を見つけました。 発句 ひき起こす霜の薄や朝の門 丈艸 脇 柿の落葉をさがす焚付 支考 第三 月にまつ狸の糞をしるしにて 翁 元禄三年(1690)冬、滞在中の京都で興行された六吟歌仙に見える付合です。翁(芭蕉)の付けた第三のなかにタヌキの糞が転がっています。 連句の「句数(くかず)」の定めに従って秋を三句続けるべく、月の座をここに引き上げたものですが、その「月」が「月を」ではなくて「月に」とあるところから、タヌキが月を待っているのではなく、月影を頼りに人が"けもの道"でタヌキを待っていることがわかります。 そうすると、この人物の猟師らしい後ろ姿も見えてきます。それを目印に待ちかまえられているともつゆ知らず、タヌキは因果なところで用を足したものです。 ところでこの「糞」はクソと読むのか、それともフンがよいかのは、一義的には決められません。芭蕉の発句「鶯や餅に糞する縁のさき」は、一般にフンの読みがなされているし、他の芭蕉連句に出てくる何個かの「糞」もすべて同じ読みを採用しているので、一応は波風立てずに大勢に従っておくことにします。 ちなみに上記の句には、中七を「餅に屎する」の異句形もあり、仮にこれが文献的に信頼のできるものならば、「糞」と「屎」が、フンとクソに対応する表記であると考えることも、これまた一応は可能でしょうが、これだって見方をかえることができて、決め手にはなりません。 なお、"フンよりもクソの方が汚いからフンが良い"などという、現代語の語感のみに頼った自己チュー式判断を表に立てても、実はこういう場合には屁の役にも立たないということは銘記すべきでしょう。フンガク、もとい、ブンガク研究家とかハイジンを名乗る方々には結構この手の御仁が多いようですが。 朝から尾籠な話で恐縮ですが、今日はこの辺でやめて明日に続けます。 *撮影機材:R-D1+NOCTILUX-M50mm f1.0 (2nd generation)
by YOSHIO_HAYASHI
| 2006-10-22 08:06
| 言語・文化雑考
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